【M78星雲-その2 星のヒロイン】






オレは、心に何かがヒットした時、すぐに感動と喜びがもろに出る。

「エッ」「エ-」「エ―――」「マジかよ」とか「ワオ-」てな具合だ。

そして、その興味の度合いによって、感嘆符「!」が付く。

1個くらいで終わる時もあれば、それこそ5個くらい付く事もある。

だがあの日、トムの口から漏れ出た言葉には、たぶん最大限の

感嘆符が付いたに違いない。






トムはオランダ人の映画評論家だ。

特に日本映画を専門とする。

15年位前、彼はパリに住んでいた。

その頃にギターウルフは、セーヌ川沿いにあったレストランの上の劇場で

ライブをやった。

それを彼が見に来て以来のつきあいだ。

ライブ後に会った時、オレ達の映画【ワイルドゼロ】の大ファンだと

言ったから、どんな映画が好きそうか、わかりそうなものだ。

評論家と言っても、パリにいる頃は無名に近かったが、

本を出したりしているうちに、近頃は名前が知られてきて、

映画祭の審査委員に招かれるようになった。

数年前、日本に来た時に会うと、丁度、北海道の映画祭に招かれて

帰って来たばかりだと言う。

北海道の映画祭でトムが招かれたと言うからピンと来て

「夕張~」とオレが言うと

「Yes!夕張ファンタスティックムービーフェスティバル」

へえ、えらくなったじゃんと感心した。

ついでに、他にどんな人が審査員として来ていたのか興味があり

聞いてみた。

すると!?

するとだ。

座っていた椅子がガタガタっと少し震え、

「エ――――――」と驚き、その後の余韻に感嘆符100個ぐらいが

飛び交った。

トムの口から出た名前は「ひ、し、み、ゆ、り、こ、さ、ん」

ひし美ゆり子!

自分でも、こんなに驚くのかと、自分自身で驚いた。

だって、彼女はウルトラ警備隊じゃないか!

アンヌ隊員だ。






「あんなセイジ初めて見た」とは、後でトムが誰かに話した言葉だ。

確かにそうだったのかもしれない。

なんせ、ウルトラ警備隊のアンヌ隊員に会ったのだから。

ひし美ゆり子さんと言う名前に、異常に驚いたオレに興味を持ってか、

トムはオレを、彼女の経営している調布の店に誘った。

少しためらったが、やはりアンヌ隊員には会いたかった。

幼い頃の感覚は生きている。

あの宇宙のキラキラする物語に生きたヒロインから、

どんな雰囲気が発せられるのか知りたかった。

まるでJAXAやNASAに行くような感覚に少し似ていたかもしれない。






店では、美しい若い女の子が働いていた。

ひし美さんの娘だという。

どうもオレはウルトラセブンとなると、現実と物語の境がごっちゃになり、

とんちんかんだ。

彼女がビールを持って来てくれた時、テーブルの上に?マークが

飛ぶようなことを聞いている。

「ウルトラセブンのお母さん持ってどうですか?」

当然、彼女は苦笑するだけだった。

やがてトムの紹介を受け、ひし美さんに会うのだが、

あいさつもほどほどに、彼女はコップを手にテーブルに座り、

輪に入って一緒に飲んでくれた。

NHKのドラマ、私が愛したウルトラセブンの中でも少し描かれているが、

お酒はよく飲まれるらしい。

するとこちらも酒で緊張をほぐれ、するすると再び、とんちんかんが

顔をだし始めたから大変だ。

でも彼女は、ウルトラセブンファンの前では、

自身がアンヌ隊員である事を、はっきり自覚してくれているようで、

自分の変な質問にも丁寧に答えてくれた。

その変な質問は、当然、ここでは恥ずかしくて言えない。

結局、店にいたのは2時間程だったろうか、つかの間だったが、

幼い頃、物語を、現実とちょっぴり混同していた感覚が戻った

不思議な時間だった。

ドアを開けて外に出た。

夜空に星はあったろうか?

天気の事は記憶にない、それどころではなかったかもしれない。

だが間違い無く、自分の胸に星は瞬いていたに違いなく、

どころか上機嫌で、ウルトラセブンの歌でも歌っていたかもしれない。

その夜は、その後もどこかで飲み、トム相手にしこたま酔っ払った。

よほど陽気でぐいぐいいったせいか、制御出来ないくらいの大虎、

いや大狼になっていた。

気がつくと、その日もう一人つきあってくれたアメリカ人がいたのだが、

彼はあきれて帰ったようで、トムだけが側にいた。

トムもよくオレをほったらかさず、あの夜はよくつきあってくれたよ。

オレがもしウルトラ警備隊になることがあったら、

ポインターに乗せてあげよう。