【ポマードロック】






あの頃は毎晩、ちょっとした覚悟が必要だった。

今夜は4回位でいかないかなと、いつも思っていた。

だが、やはり5回以上はやってやらないとすっきりしない。

風呂に入り、シャワーの蛇口をひねる。

そして、シャンプーをドボドボかけ、ベトベトの髪に指を突っ込んで、

おりゃあ!今夜も思いっきり洗うのだ。

「ウオー!」




髪をあげていた頃は、洗髪が大変だった。

正確に言うと、油性ポマードを使っていた頃までは大変だった。

みんなが定番の柳家のポマードを使う中、オレは、

MG5という油性ポマードを使っていた。

朝、鏡の前で、瓶に指を2本突っ込んでポマードをたっぷり付ける。

それをサラサラヘアーの横っちょの上の方から塗りたくっていく。

たっぷり塗布し終わり、髪がとりあえず乱暴にあがったところで、

手を石鹸で洗う。

その時、鏡で自分のおでこを見ながら、眉を上下に動かし、本日の自分の

ナルシストぶりを確認し、そして櫛を入れ、髪を整えていく。

毎朝だいたい遅刻気味だが、ギリギリまで粘り、

おっしゃあ!とできあがれば、駅まで猛ダッシュだ。

そして夜帰ってきて、シャンプー5回以上の毎日が、数年続いた。

その後原宿で、画期的な水性ポマードの存在を知って、

その日々は終わる。

だがそれまで、油をいかに楽に落とすか、試行錯誤があった。

普通の石鹸がいいと聞きそれもよく使った。

はたまたある時、ママレモンがいいと聞いたことがあり、

それも試したことがあるが、全然効きやしなかった。

だが、そんなある日、夢のシャンプーに出会った事がある。

当時、絶大な人気のアイドルがCMをやっていたシャンプーで

スーパーマイルドというのがあった。

そのアイドルのおかげで、買う男共は多かったに違いない。

オレもその1人だが、それを使った時に驚いた。

シャンプー後「あれ!」

一発で髪の毛がキュッキュして油が落ちている。

びっくりした。

後年、オレの友達に聞くと、その威力を知っている奴は多い。

たぶんあの頃、油野郎の風呂からは絶対間違い無く、

何度もつっこみの声があがったはずだ。

「どこがスーパーマイルドやねん!」




あの頃、毎晩、毎晩5回以上洗ってでも必死にかっこつけようとする姿は、

今思えばなんだか滑稽だ。

だけどその分、不細工ながらも、かっこつける気持ちは脂ぎっていて、

そしてなんだか、ごつごつしている奴が多かった。

今となれば、そういう連中こそいとおしい。

イエー、ポマードロック!