【意外性トバーズ】





まるで温泉宿の仲居さんみたいだ。

近所でそんな女の人とすれ違った。

その人を似顔絵で描くとしたら、マッチ棒のような細い身体に、

ショートカットの小さい顔をつけ、

三つの点で目鼻、点よりちょい長めの線で眉毛と口を描ける様な顔立ちで、

歩き方もぴょこぴょこ軽く、おもしろい印象の女の人だった。

OLの制服を着て歩いているが、近くにそれらしい会社も無いのに

どこだろうと思ったら、よく前を通る車屋さんで働いている人だった。

たまに連絡係か何かだろうか、小走りの姿を見かけたりすると、

それが宿の廊下を走っているようで、少し笑ってしまう自分がいた。

だがある時だ。

オレがZⅡで家に帰る途中だった。

夕方のでっかい幹線道路はわずかに混んでいたが、十分流れていた。

車を抜きつつオレはバイクを操る。

するとだ、でっかい排気量を持ったピンクのレーサータイプの走り屋の

4輪が、爆音と共に背後にいきなりせまってきて、外側からズギューンと

抜いてった。

「チッ」と舌打ちで運転席チラ見すると、「エ―――!」と

一瞬の窓枠に驚愕した。

運転席にあの女の人!

ハンドルを構え、少しうつむき加減で正面を見据えていた。

その姿をバチーンと脳に焼き付け驚くオレを尻目に、

あれよあれよと言う間に、ピンクのスポーツカーは行ってしまった。

「走り屋だったのか!?」

それからその女の人の見方が180度変わった。

点で描ける様な顔も、細い身体もまるでスーッと白鷺のように感じ、

少し笑うように思った歩き方も颯爽に感じだしたから、不思議なものだ。

たまに夜、シャッターの閉まった店の前で、自分のピンクの愛車を

洗っているのを見かけたが、そこにかつて感じた仲居さんのような印象は、

全く消えていた。

やがて車屋さんは無くなり、その女の人の姿は見かけなくなったが、

自分にとって、意外性というものの、強烈な威力を再発見する

ひとつの出来事になった。





人は意外性がおもしろい。

意外性のほとんどは女の人だ。

思い返せば結構ある。

ものすごく言葉遣いも物腰も礼儀正しく、いかにも昭和の女の人って

感じの人がSMの女王だったり、

若くまぶしくキラキラしていて、どこかの女子大生だろうかと思った人が、

AV女優だったり、いつも口をキリっと結んでいて、冗談も言わず

エレガントに仕事をこなすデスクの美人が、大学の時、落研出身だったり、

スーパーで野菜を買っている姿がいつも疲れていて、ふらふらになりながら

自転車を漕いでいた人が脚本家の大先生だったり、

今まで驚かされたことは多い。

その他の普通の仕事でも、女の人はたたずまいに本質を隠しているので、

驚かないまでも、ハッとさせられる事はよくある。

女の人は簡単にさらけ出さない、そこに意外性が生まれるのだろう。

男は逆で、自分を含め、すぐにさらけ出して自分を誇るようなところがあり、

意外性は少ない。

目の前にいたその人の風景を、一瞬で変える意外性。

人は人の意外性を見た瞬間、その人にググッと引き寄せられる。

だからオレも意外性を持つのだ!

だがもう遅いね、こんなにさらけ出したら。

やっぱり男はだめだゼ。