【忍者と梅干し】
一瞬喉が「うぎょ」
でっかい梅干しの種を飲み込んでしまった。
胃にポツンと石ころが落ちた感じだ。
母親に「梅干しだけで一週間生きられる」とふかされた。
子供の頃、空前の忍者ブームがあった。
【仮面の忍者赤影】や【サスケ】が放映されていた時代で、
子供達はみんな夢中だった。
彼ら忍者が使う術は、大人から見たら荒唐無稽に見えたかもしれない。
だが、子供から見たら全て理に合っている気がして、修行次第で
出来るような錯覚を持たせてくれるものだった。
だから、その忍者の食事を例に、梅干し一週間の話をされたので、
当然、本気で信じた。
「味がしなくなる」と伝えても、「舐め続けるとじわじわ栄養が出て来る」
なんて言われたものだから、梅干しを口に入れた後は、忍者のつもりで、
長く舐め続けた。
舐めるのに飽きて、一回歯で割った。
中の赤い実を食べた。
これが一週間生きられるナゾなのだろうか?
でも食べてしまったらもうこの梅干しは効力が消えるだろうなあと、
また一個口に入れた。
家にあった梅干しは、母親がでっかい壺で漬けていた大粒の梅で、
口に入れると、子供の顔をシュとしかめさせる酸っぱさがあった。
実が厚く食べ応えがあるから、忍者云々を少し納得させるものがあるが、
食べてしまえばやはり味がしない。
本当にじわじわ栄養がでているのだろうか?
でも中は小さい赤い実だけだしなあ?と疑い始めた頃、
何かの拍子で、種を飲み込んだ。
よくスイカの種を食べるとおへそから芽が出るなんて言われたが、
果たして梅の木が生えるのか?
でも手の施しようがない。
少しだけ恐怖感を持ったが、子供は遊びだしたらそんな事すぐ忘れちまう。
梅の木は生えなかった。
昔、日本ツアーの時、松山のライブだったろうか、
仙台から来たファンの子に
大粒の梅干し4個をプレゼントしてもらった事がある。
なんだかすごくありがたかった。