【真夜中のデスティニー】




居酒屋を出たら占い師がいた。

長い髪のお姉さんだった。

思わず、引き込まれる様に手相をだした。

一緒に飲んでいた連中が、千鳥足で机を囲む。

お姉さんは何も言わずオレの手を見た後、怪訝そうな顔で

オレと仲間を下から見上げた。




深夜の高円寺、人は暗闇にまばらで殆どが酔っ払いだ。

20代半ばの頃で、占いなんて初めてだった。

勢いで手を出したはいいが料金を聞いてない。

五百円くらいかと思ってそんな事を言うと、

お姉さんは少しあきれたようにオレの手を離した。

そしてきっぱり「二千円で見てあげる」

これでも安くしてると付け足されたので

「お願いします」と離された手を再びグッと差し出した。




深夜の風がその人の背後で吹いていた。

紙くずがカサコソ暗闇に転がっていく。

オレと仲間達に囲まれて、女の人がオレの手を持って言った。

「あなた相当頑固ね」

「そしてメチャクチャ長生きする」

ヘエ~、まあまあ興味深かった。

深夜の余興としてもなかなかわるくない。

でもなあ~んだと思った。

その占いはあまりにも平凡で、

20代半ばの、でっかい夢を見ている激しい魂には、

なんだか物足りなかった。

「近い将来、M78星雲から使者がやって来て、あなたは

ウルトラマンになるわよ」くらいの事を言われたかった。




占いの人に見てもらったのは後にも先にもこの時きりだ。

たまに番組とかで占い師にあったりするが、やんわり断る。

たかが余興だとは思っているが、たかが知れている気がして、

まあいいかと思ってしまう。

人は誰でも多面性を持っている。

強かったり弱かったり、頑固だったり優柔不断だったり、

潔癖だったり欲深だったり、

自分はこういう人だからと自分で自分を決めつけたり、

時には、自分の性格を延々と説明する人がいるが、

ちょっと違うように思う。

占い師はその部分を限定して言わなければならないし、

それもわかるので、まあいいかとなる。

運気が上がったり下がったりもそうだ。

もしそんな運気が見えたとしても、

かつて、地球を支配した恐竜チラノザウルスやブロントザウルスの

運気がどうだったろうと考えた場合、それがどれほどの物かと思ってしまう。




かといって占いを見るのは結構好きだ。

朝の番組で、自分の星座が一番だったら嬉しいし、

逆に一番だめなら、ふむふむ、今日気をつける事はこれかと思い楽しい。

雑誌なんかに書いてあったらだいたい目を通す。

かつて好きになった娘がいて、ある日雑誌の占いを見た時、

行くなら今しかないような事が書いてあり、

「おっしゃあーーー!」と気合いを入れ、つまずきそうになりながら

思いの丈をぶちまけたが、見事に撃沈した。

かつて流行った動物占いも面白かった。

オレはクロヒョウだった。

なつかしく思い、さっき最新版の動物占いをやったが、ウサギになったゾ。

なんじゃこりゃあ。