【女子高生MZ5】





ギターウルフを結成してまだ一年位の時だった。

練習に少し遅れてきたビリーが、

スタジオの防音ガラス扉の向こうに姿を現した。

横顔を見せながら、重い取っ手に上から体重をかけ

押し回し入ってきた。

ニヤッと笑ったが何か少しふてくされているような。

言葉を待っているとビリーが言った。

「女子高生に声かけられちまった」

「なぬーーー!!!!」

オレは当然驚き、ナリちゃんはドラムに座ったまま首を突き出す。

「大ファンだって声かけられた」

「エーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

数倍驚いた。

いきなりオレの頭に過去のライブが駆け巡る。

ライブはだいたい友達だけで、ファンなんていやしない。

可能性があるとしたら対バンを見に来た女子高生か?

更にビリーが言うには、

「大ファンだからジュースをおごらせてくれって言うんだ」

「ヘエ-!」と相づちを打ち、オレ達にもそんなファンが遂に!と

少し感動する準備をして話の最後を待った。

しかしそこはなかなか、半信半疑には聞いていたが、

やはり半疑の方にレバーはバタッと倒れた。

女子高生は無邪気に残酷だ。

売れないバンドマンに仕掛けるか普通!

ビリーは「いいよ、いいよ」と言いながらも、「是非!」と言う

申し出に負けて、うかつにもその女子高生にのこのこ付いて行った。

その先にジュースの自動販売機があったまではよかったが、

横に看板を持ってカメラを構えた男子高生が立っていた。

看板には【どっきりカメラ】の文字、

なんでも高校の学園祭用のビデオを撮っているらしい。

カーッと血が上ったが、怒りよりも、のこのこ付いていった

恥ずかしさの方が先に来た、しかも相手は女子高生。

さすがのビリーも苦笑いでその場を立ち去るしかなかった。

スタジオは大笑いだが、少し引っ掛かるような、

まあでもやっぱり、ここは笑うしかない。

天災みたいなもんだ。



だが実は、この後オレも餌食になっている。

ある日、地下鉄に乗っていた。

車内はそれ程混んでなく、オレはつり革を持って暗い窓を見ていた。

すると突然だ!

オレの真横で女子高生数名が小さな奇声をあげた。

「エッエッ、うそー」とか「キャー!」とか言ってる。

両手グーを口にあて、その集団はオレの横顔をガン見して

騒いでいる様子だ。

いや違う、絶対に何かの間違い。

だが何となくわかる女子高生達の視線の先は

やはり間違いなくオレだ。

それでも絶対に振り向いてたまるかと我慢するが、

女子高生達のキャーキャー攻勢は威力を増し、

オレは思わず振り向いた。

すると先頭の子と一瞬目が合ったと思ったら、

彼女達の目は一斉にオレの頭上に向けられ、その頭上を指さした。

中吊りだ。

たく!この野郎!とは思ったが、

それより「もしやオレ!?」とドキドキした恥ずかしさがきて、

つり革を持ったまま、苦虫をつぶすしかなかった。

気がつくと女子高生達は、ドアの付近でカナブンが団子になって

ガサゴソするように騒いでいたと思ったら、

ドアが開くとワッと降りていった。

中吊りには誰かが写っていた。

ちょっと思い返す、やはり彼女達はこの中吊りに反応していたの

だろうか?

いやいや違う、ありゃあ絶対にオレに仕掛けた。

ニャロウ!

まあ天災みたいなものか。



90年代中頃のサンフランシスコの街で、

あるバンドのうわさで持ちきりだった事がある。

聞くとメンバーみんな女子高生だという。

そのバンドの名はドナス、【THE DONNAS】だ。

今でこそ彼女達はまあまあ知られているが、

その頃は組んだばかりで、うわさはサンフランシスコだけに

とどまっていた。

そのうわさの渦中の彼女達が、いきなりギターウルフのライブの

前座セットアップされていたから驚いた。

客はドナス見たさにすごい数だ。

オレも出番前に後ろの方で見た。

みんな白いTシャツにGパンで登場し、どんな曲をやるのかと思え

ば、いきなり「ワン、ツー、スリー、フォー!」で

ラモーンズ系ロックをぶちかましたから、

オレはググッと人をかき分けステージに近づいた。

特に派手なアクションがあるわけでもないのに、曲が最高だ、

その上、やはり最強の女子高生。

たくさんの目に注目されるのに戸惑いながらロックする様子が

初々しく、熟れる前の果実の持つフレッシュなパワーのしぶきが、

プシュー、プシューと会場にかかるようで、

客はみんな上気している。

数年後、有名になって原宿のホールにやって来た彼女達を見たが、

この時の最高さは影を潜め、見る影もなかった。

やはり、女子高生というあの時期だけが持つマジックが

あったに違いない。

可愛い子ぶったり、大人だったり、初々しかったり、残酷だったり、

世界が自分中心にまわる時期。

それに時折、大人達は翻弄される。

う~んやはり、世界5大パワーの一つ、女子高生パワー、

恐るべし。