【WAITING FOR YOU】





丁度今頃の、師走の街が活気づいている夜だった。

新宿駅に向かう途中、偶然、中学の時のクラスメートと会った。

アルタが斜め向こうに見える交差点を足早に渡ると、

シャッター閉まった店の前に、彼はひとり立っていた。

「おう!」といきなり気持ちがはじける。

お互い、田舎から出てきて10数年が経っていた。

彼とは中学の一時期よく遊んだ仲で、お互いの家をしょっちゅう

行き来していた。

全く思いがけない偶然だった。

しかも、この大東京で会うという驚きというか感激があり、

その時、奇跡の様な嬉しさを感じた。

当然オレは「飲みに行こう」と彼をゆさぶるように誘った。

だが彼は柔和に笑いを返すも、態度が曖昧だ。

聞くと人を待っていると言う。

しかも、ある女の子を5時間も待っていると言う。

「5時間!」声に出して驚いた。

でも気持ちはわかる、オレも待つ時は結構待つ、だが5時間は

ちょっとない。

携帯電話はまだ無く、

一度外に出ると連絡のつけようはなかった。

内心思った「そりゃあ、ふられてるよ」

オレは、あきらめて飲みに行く方を薦めた。

しかもしつこつ、その上だんだんエスカレートして

原宿の不良連中を誘うような強引さで

「女なんてどうでもいいじゃんよ」みたいな誘い方をした。

しかし彼はかたくなだ。

オレに合わせて笑いながら返すが、一瞬見せた彼の表情から、

何かその女の子への想いの強さを感じ取り、

オレは遂に誘うのをあきらめた。

夜の風が吹いていた。

闊歩していればそれ程の寒さを感じないが、

立ちんぼだとちょっと寒い。

ちょっと一緒にいようかなと思ったが、

その寒さに身を固くして待っている彼の一途な気持ちを

お茶で濁すような事はしてはいけない気がして、

オレはその場を立ち去った。







数年後、彼は東京から島根に戻り今は会う機会はない。

その時の女の子が来たかどうかは知らない。

あの頃の男は、オレを含めなかなか吹っ切れがわるいが、

その分純情だ。

だが男のそんな部分を見ると、わかっちゃいるけど、

そんなところ人に見せるな!と叱咤する自分もいる。

しかしあの夜、彼がひたすら願っていた待ち人への想いは、

自分の茶化しにも決して曇らず、

都会の寒空にきりりと針金のように光っていた。

先日、町の雑踏を歩いている時、ふとあの夜の事を思い出した。

今の時期、町は忙しく活気があるが、その上の空には、

いろんな想いがため息と共に浮かんでいて、

ちょっとキラッとしている。