【ギターズ】
(おりゃあ!来い来い来い!
頭の中に電光を走らせようとすったもんだしている四畳半の部屋がある。
9階建てのマンションの9階のベランダに建つプレハブ部屋だ。
ベランダが広かったので、越して来た時に建てた。
いや、建てたかったから、越して来たというのが正しい。
毎日、ちょっとした“傷だらけの天使”の気分を味わっている。
部屋の扉には、部屋の惨状を聞いた女の方から頂いた
“中二部屋”と書かれたボードが掛かっている。
ガラッと開けると、さすがにピンクレディのポスターはないが、まさしくガキの部屋だ。
自分の所蔵品とギターウルフ関係、マンガや本、CDとレコード、そしてラックの横には、無造作に立てかけられたギター達が、おっと、ここでは愛蔵ギターと言わなければ、自分と数多くのライブを戦ってきた彼らに失礼だ、とは言っても、いまさら愛蔵なんて言葉をよく使えるなとギターに怒られるくらい、メンテもせずに置きっぱなしにしてある。
それらの怒りのギターが毎夜ささやくのをオレは耳にしたので、記録する事にした。)
ギブソンSG スタンダード レッド(1994購入)と
ギブソンSG スタンダード ホワイトwith ポイズンアイビーサイン(1997購入)
「おいちょっとおめえら、そんなに寄りかかんなよ!この中で一番高級なオレ様が、なんで、てめえらの体重を一身に引き受けなければならないのだ!見ろこの鉄の補強、強そうだろう。これはあのバカセイジがステージでオレ様を投げやがるから、ここんとこがパカっと割れちまったんだ。でもよ、あいつその時、現場の親方だったから、一人で残業すると若い衆をみんな帰らせた後に、現場の片隅でこっそり鉄を加工してオレを修理してやんの。
まあ割合気に入ってんだけどな。ちょっと重いけどさ、とは言ってもレスポールほどじゃないさ。」
「まあいいわね、あんたなんて修理してもらっているだけましよ。言っとくけど私だって高級さはあんたと同じなんですけど。1997年のクランプスの全米ツアーで活躍したのが私よ。その証拠にここを見ておくれ。後3日でツアーが終わるというセントルイスのリハ終わりに、ポイズンアイビーにサインをもらっちゃたんだから。でもその後が大変、日本凱旋ライブでセイジの奴が興奮しまくって私を弾くものだから、案の定、ひびが入っちゃってさ。ライブ中にセイジがチューニングしてたらネックが折れてきて気高い私がお辞儀するみたいになっちゃって恥ずかしいったらありゃしなかったわ。それにしてもあのツアーは楽しかった。クランプスはもちろんだけど、ゴリーズのダニーのバンド″ドールロッヅ“との珍道中が最高だった!そろそろセイジは私を修理してくれるんじゃないかしら。何かボンドを買ってたみたいだし」
ダンエレクトロ ロングホーン(1996購入)
「フン、傷だらけのみんなにはわるいけど、見てくれよこの星がちりばめられた僕のボディを。セイジはリンクレイ好きだからね、一生僕の事を大事にしてくれるって、この間まで思ってたんだ。なのにあいつ最近ガーゼのドラムの人とノイズユニット“ジェットヒミコ”ってのを始めやがったんだ。そのユニットであいつは3本もギターを背負うのだけど、そのうちの一本が僕なんだ!僕の見た目がカッコいいから使っているのだろうけど、いい迷惑だ。もしも僕のボディに傷でも入ったら一生恨んでやる。おとなしくリンクレイ弾いてろ!」
グヤトーン Guyatone LG-350T CUSTOM(1987購入)
「皆の衆、なんだかペラペラうるさいの。わしは今、瞑想にふけっとるのじゃ。
何じゃと?わしの事を聞きたい?それならば少し。
わしは70年代に生まれて、別の名をシャープ5とも言う国産のギターじゃ。出た当時は貴公子と呼ばれたり、今は王様とも呼ばれたりしとるよ。最初の主人は金に困って渋谷のファイヤー通りにあったピンクフラミンゴという古着屋にわしを売りにだしたんじゃ。そこに原宿の仕事帰りに立ち寄った今の小僧が、わしを見て一発で気に入ったらしいのじゃ。確か小僧がバンドを始めたばかりの頃じゃったのう。側には最初のドラムがいたからのう。お前らが、どんな音楽を奏でられたかは知らんが、あの小僧はオレのボディでボトルネックをこすったりしてたのう、おまけに椅子に座って、デルタブルースばかり弾いとったようだが、だんだんガチャガチャやりだしたとたん、わしはケースに入れられてしばらく世の中には出とらん。それからじゃ、わしが瞑想にふけるようになったのは。うだうだ考えても、世の中なるようにしかならんからな。いずれ、またわしを弾きたくなる時がくるじゃろう。」
ギブソン SG Junior(2000贈呈)
フランプトン ストラトキャスター(1982購入)
「ギブソンSGレッドさん、みんなを支えてくださってありがとうございます。一番下でさぞきついのではないですか。Juniorの僕はネックが一番細くて、とてもとてもあなたのようなたくましさはありません。しかもひょっとしてこの中では僕が一番高級なのかも、失礼、グヤトーンさんがいらっしゃいましたね。
僕は、ある方から直々にご主人様にプレゼントされました。丁度、ギターウルフのUFOロマンテッィクスのツアーの時で、水戸のライブの日でした。それ以来、僕を必ず丁寧に扱ってくださいます。ライブなどという野蛮な、身の毛がよだつ場所に連れて行かれたことは一度もありません。僕がいつも行くのは、コーヒーの香りとたまにカップラーメンに匂いが漂うレコーディングスタジオでしか、ご主人様は僕を弾きません。そういう事なので、ギブソンSGレッドさん、あなたの頑丈なお身体で、僕をいつも支えてくださいね。」
「やいやい、レコーディングの主役のオレを忘れてもらっては困るね。しかもこちとら初期のライブはだいたい経験している強者だゼ。そして極めつけの話で言えば、セイジが東京で最初に手に入れたギターがオレだ。世田谷区上馬にあったスクラップハウスという古道具屋で2000円の値札をつけられていたのをセイジが買ったんだ。もともと少年ジャンプの通販のギターだったのだが、最初の購入者がオレをいろいろ改造したせいか、独特で不思議な音色がオレからでるらしいゼ。全くの偶然だろうけどな。
LOVE ROCKのアルバムではJuniorお前と半々くらいの登場だったが、それ以前と以降はだいたいオレがメインだな。セイジの野郎は気合いを入れるとか言ってブルースリーのステッカーをオレに張り付けて、カンフーギター何て呼んだりしてるよ。わるいがオレも、みんなの上によっかからせてもらうゼ。」
エピフォンSG G-310 ブラック ギターウルフモデル(2004年)
エピフォンSG G-310 ブラックwithジョーンジェットサイン(2002年)
「みんないろいろ言ってるがオレが今一番の現役バリバリよ。セイジは相変わらずラフでめちゃくちゃだけど、それに耐えるのがオレのステイタスだ。ネックに刻まれた狼の文字は伊達じゃない。ピックアップはフロントを外してリアのみだ。搭載してあるピックアップはオリジナルを外しDIMARZIO/DP222Black D Activafor Xを乗っけてある。つまみは二つで、一つはボリューム、もう一つはオレの体の中に仕込んであるファズのかかり具合を調節するためのものだ。ファズは“サファイアシティ”という曲をCD通りに再現するために搭載したのだが、セイジは使い方が下手すぎて別の曲にもしばしばスイッチを入れちまうんだ。
とりあえずライブで一番目にするのはオレさ。4649!」
「そうね、あんたはそうだけど、私も最近また復活したのさ。あんたと同じDIMARZIO/DP222Black D Activafor Xを乗っけてね。たぶんセイジはジョーンジェットのサインが入っている私を一番使いたいはずだけど、随分前にネックが折れてからしばらく寝てたわよ。やっとセイジがこの間、強力なボンドをインターネットで買ってくっ付けてくれたってわけ。またガンガン登場するからヨロシクね。
ジョーンのサインはいつもらったかって?
これは2003年に渋谷クアトロでギターウルフがジョーンジェットの前座をやった時だね。その時セイジはジョーンのベストアルバムの制作に加わったりして有頂天になっててさ。ギターウルフの本番が始まる前にジョーンが楽屋に現れた時、セイジがプリーズ!と勢いと共にもらったのだけど、ちょっとにじんでいるように見えるよね。それは最初シルバーの蛍光ペンでサインを書いてもらったのだけど、シルバーだと何かはっきりしなかった。それでジョーンにもう一回頼んで、上からホワイトでなぞってもらったんだ。本当にジョーンはさっぱりした切符のいいお姉ちゃんだった。そしてかっこいいたらありゃしなかったよ。」
エピフォンSG G-310ベース ギターウルフモデルUSA(2004年)
「おーい、聞こえるか!メンフィスの倉庫から叫んでいるゾ!見てくれオレの傷だらけの勲章を!ボロボロに見えるって!?ヘイハニー!馬鹿言っちゃあいけない、オレがどれだけアメリカ大陸で大暴れしているかわかるだろう。しかもなぜか音がめちゃくちゃいいんだ。搭載しているピックアップは、SEYMOUR DUNCAN/SH-8b Invader Blackさ。もともと爆音でいいのだけど、アメリカの風土とセイジの汗とビールのせいか、ますます音に迫力がでているんだ。セイジはいつもアンプ直結だけど、音が凄いので、アメリカ人がセイジはなんのディストーションをかましてるんだとうるさく聞いてくるぐらいだ。
とにかく早くまたアメリカで爆音を鳴らしたいゼ!」
エピフォンSG G-310 NEW WILD ZERO Sword (WILD ZERO2用)
「知り合いの宇宙人がいるんだ。チェストー!」