以前シリーズでアップしていた「不妊治療でよく使われるお薬」についてのお話ですが、

昨年より不妊治療の保険適用が広がったことに伴い、あらためて更新していきたいと思います。


新シリーズ第1回目は「クロミッド」についてお話ししましょう。

クロミッドは一般名(有効成分の名前)をクロミフェンクエン酸塩という、いわゆる排卵誘発剤です。ちなみにクロミッドにはジェネリック医薬品はありません。

 


 

排卵誘発剤というのは文字通り、排卵が起こるように使う薬ではあるのですが、実際には排卵をさせる薬というよりは、卵胞(卵子)をしっかり排卵するように育てる薬というイメージです。


国から承認されている効能効果は、ちょっと難しい表現になっていますが、


○排卵障害にもとづく不妊症の排卵誘発
○生殖補助医療における調節卵巣刺激
○乏精子症における精子形成の誘導

 

となっています。
 

男性の適応についてはまたの機会にして、今回は女性の適応についてお話ししましょう。


卵巣に卵胞は見えるものの、なかなか排卵まで育たないといった、排卵が起こりにくい場合に処方され、タイミング療法や人工授精のための排卵誘発に使われます。

 

また昨年4月には、体外受精のための調節卵巣刺激も新たに承認されました。

調節卵巣刺激とは、体外受精治療において、複数の卵胞を発育させて採卵をめざす方法です。


それではこの薬が排卵誘発剤として働く仕組みをご説明しましょう。

一言でいうとクロミッドが持つエストロゲン拮抗作用を利用します。


エストロゲンとは、女性ホルモンのひとつで、卵巣の中で卵胞が育ってくるとともに分泌されるホルモンです。


卵胞を育て、排卵させるために不可欠な卵胞刺激ホルモン(FSH)黄体形成ホルモン(LH)脳の下垂体というところから分泌されますが、その分泌をコントロールしているのが卵胞ホルモンであるエストロゲンです。


エストロゲンがまだ少ない(卵胞が育っていない)間はFSHがたくさん分泌され卵胞を育てようとします。

エストロゲンが高くなるとFSHの分泌は少なくなります。

(これをエストロゲンのネガティブフィードバックといいます)

通常はこの仕組みによって、1周期に1個の卵子が排卵するよう絶妙にコントロールされますが、卵胞のFSHに対する感受性が低くなってしまうなど、卵胞の発育が進みにくくなることがあります。




(図はImidasより引用させていただきました)

 

 

そのような場合でも、
クロミッドの持つそのエストロゲン拮抗作用により、エストロゲンのサインを脳が受け取る(フィードバック)のを妨げますので、脳は卵胞がまだまだ育っていないと思いその結果FSHの分泌が増えるのです。

このように実際にはクロミッドが直接卵胞を育てる作用を持っているのではなく、もともと自然に分泌されるFSHをさらにしっかり出るようにして卵胞を発育させ、排卵を促します。

 

そのような仕組みなので、下垂体性の無排卵(脳下垂体から刺激ホルモンがうまく分泌されない)には効果は期待できません。

その場合には注射タイプの排卵誘発剤を使用します。(詳しくはまたお話しする予定です)


クロミッドの一般的な使い方は、月経開始3日目頃から1日1回1錠(50mg)を5日間程度服用します。

それで効果が不十分であれば次の周期は1回2錠に増量することもあります。


多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)で使用する際は、過排卵や卵巣過剰刺激症候群:OHSS
OHSS(たくさんの卵子が発育してしまい卵巣が腫れてしまう状態)に注意します。

その他の副作用はあまり多くありませんが、主なものとして食欲不振や悪心などが見られることがあります。

また、まれに目の霞みが現れることがあるのでもし服用されて何か気になる症状を感じたら処方医に相談されるとよいでしょう。
 

クロミッドの特徴は、排卵誘発作用がマイルドなこと、飲み薬のため投与が簡便なこと、価格が安いことなどが挙げられます。


一方で、抗エストロゲン作用により子宮内膜が厚くなりにくいことがありますのでその傾向が強い方は処方の変更が検討されます。

今回はクロミッドのお話でした。

少し難しかったかもしれませんが、もしお薬を使うとなった時に、どのような仕組みなのかを知っていただくことで、少しでも安心して服用していただければと思っています。



次回は同じく排卵誘発作用を持つフェマーラ(レトロゾール)についてお話したいと思います。




文責:[生殖医療薬剤部門] 山本 健児

 

 

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