NAO | もしも君が迷ったなら

もしも君が迷ったなら

思いついた言葉を詩に。思いついたストーリーを小説に。

久美子は恋をしている。相手は同じクラスの山根輝之。小中高とずっと同じで、立派な腐れ縁である。
運命的な関係と思いたい。だけど彼には彼女がいる。


「久美子。」
帰ろうとした久美子が振り返ると、輝之が立っていた。
「何?」
「また先生が呼んでた。」
輝之が苦笑する。
「そう。ったく、毎回呼び出して。雑用なら自分でやれっつーの。」
毒を吐くと、輝之はまた笑った。久美子は彼の笑顔が好きだった。
「まぁそれが委員長の運命デショ。」
「そうね。」
諦めにも似た相槌だったが、実は呼び出してくれる先生に感謝したいほどだった。委員長の二人が呼び出されれば、短時間でも輝之と一緒の時間を過ごせる。この時だけは誰も邪魔しない。


「この資料まとめといて。クラス人数分な。」
そう言って担任はドサッと資料を机の上に置いた。この量からして結構なページ数になりそうだ。
久美子と輝之は手分けをして、教室に資料を持って行くことにした。
「久美子、もうちょい乗せて。」
資料の半分以上を持った輝之は、もっと乗せるよう促した。
「大丈夫?」
「大丈夫。」
輝之が笑顔で言うので、久美子は少しずつ資料を乗せた。
「後よろしく。」
結局久美子は輝之の5分の1の量を持った。こういうさりげなく優しいところがたまらなく好きだ。


二人はたわいもない話をしながら、資料を整理した。資料は修学旅行のしおりだった。
「自由行動って言っても班行動なんだよねぇ。」
「あのさ、お前に頼みがあるんだけど。」
輝之のその言葉に何となく予想はつく。
「涼子と行動したいって言うんでしょ?」
「アタリ。」
嬉しそうにそう言う輝之がかわいく思える。
「分かってるよ。あたしと涼子が同じ班だから誤魔化せ、でしょ?」
久美子がそう言うと、輝之はうんうんと頷いた。
涼子は輝之の彼女だ。彼女はかわいくて優しくて、その上頭もいい。性格も良く男女関係なく人気がある。そんな彼女に久美子が敵うはずがない。涼子は女の子らしいが、久美子はどちらかと言うと男らしい。
「物分りいいなぁ。」
輝之が感心する。
「実は涼子からも言われてたの。だから予想はしてた。」
そう言って笑うと、輝之は苦笑した。
「何だ、そっか。何か悪いな。」
申し訳なさそうに言う輝之の背中を久美子はバシバシと叩いた。
「何言ってんの。あたしと輝之の仲じゃない。」
「小学校からの腐れ縁?」
「そう。」
頷くと輝之が笑った。久美子も釣られて笑った。


彼の笑顔が頭から離れない。彼の声もずっと聞いていたいと思う。どうして自分じゃなかったんだろう。どうして・・・。
涼子が嫌な子だったら良かったのに。
「嫌な女はあたしだ。」
帰り道が薄暗くて良かった。溢れだした涙を誰にも見られたくない。



輝之は相変わらず優しかった。
「重い物持つときは俺呼べって言ってるだろ。」
教材の入った段ボールを持っていると、輝之が代わりに持ってくれた。
「これくらい持てるのに。」
「お前、女の子って自覚してるか?」
ケラケラと輝之が笑う。その瞬間、複雑な気持ちになる。女の子として扱ってくれるのはとても嬉しい。だけど友達以上になることはない。


輝之と涼子は誰がどう見てもお似合いの二人だった。幸せそうな二人を見る度、胸が締め付けられる。息が苦しくなる。

「久美子。貸せ。」
再び重い教材を持っている久美子の前に輝之が現れる。
「これぐらい持てるってば。」
「どこがだ。フラフラしてたぞ。」
輝之は久美子の持っていた教材を代わりに持った。不意に触れた手が熱くなる。同時に胸が締め付けられた。
「・・・で。」
「え?」
久美子が呟いた声が聞こえず、輝之が聞き返す。
「もう・・・優しくしないでっ!」
「久美・・?」
自分でも何を言っているのか分からなくなり、久美子は突然反対方向へ走り出した。輝之は訳が分からず立ち尽くしていた。


久美子はいつの間にか人気のない校庭に来ていた。
「バカだ。あたし。」
あんな事言った以上、きっとこの気持ちがバレてしまっただろう。
「言うつもりなかったのに。」
溜息と共に涙が溢れる。
「久美子!」
振り返ると輝之が居た。
「な、んで・・。」
「どうしたんだよ。お前、何か変だぞ。何かあったのか?」
心配する優しい声がまた胸を締め付ける。久美子は輝之に背を向けた。
「輝之さ、優しすぎるんだよ。」
「え?」
「彼女以外に優しくするの、辞めたほうがいいよ。期待、しちゃうから。」
「期待?」
涙を堪え、久美子はくるりと振り返った。輝之の様子からして久美子の気持ちに気付いてい居ないようだ。その瞬間、チャイムが鳴る。
「やべ。授業始まった。」
「先行ってて。すぐ追いつくから。」
そう言うと、輝之は不審に思いながらも「おう。」と言って教室に戻って行った。

その背中を久美子は複雑な気持ちで見送った。

叶わない恋だと分かってる。だけどもう少しの間だけでも傍にいたい。
堪えたはずの涙がボロボロと零れる。

泣き終わったらまたいつもの笑顔に戻ろう。彼もきっとそう望んでいるから・・・。 



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今回のインスパイアはHYの【NAO 】と言う曲を元に書いたものです。


小説サイトにアップする時はもしかしたら書き直してるかもです(;0_ゝ0)


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