act.5 進行と逆行 2 | もしも君が迷ったなら

もしも君が迷ったなら

思いついた言葉を詩に。思いついたストーリーを小説に。

 義母の笑顔から逃げるように二階に駆け上がる。自分の部屋の扉を開け、後ろ手で閉めた。
 何だか良く分からない感情が胸の奥で渦巻いている。
 どうして自分はこうなんだろう? 優しく接してくれる義母《あの人》に対して、笑い返すこともできない。
(違う)
 優子は首を横に振った。笑い返すどころか、笑い方さえも忘れてしまったのだ。
 母が亡くなった、あの日から。もうずっと笑うと言う行為をしていない。
 心の奥底で黒い何かが渦巻く。
(蓋を……しなきゃ……)
 必死で抑え込む。ドアにもたれかかり、優子は深呼吸をした。
『俺はいつだって木元さんの味方だからね』
 翼の言葉がふと頭をよぎる。
 不思議だった。あの日、メールでそう言われただけなのに、それだけで何だか強くなれる。
 胸の奥がほんのり温かくなる。こんな気持ちは初めてだ。



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