義母の笑顔から逃げるように二階に駆け上がる。自分の部屋の扉を開け、後ろ手で閉めた。
何だか良く分からない感情が胸の奥で渦巻いている。
どうして自分はこうなんだろう? 優しく接してくれる義母《あの人》に対して、笑い返すこともできない。
(違う)
優子は首を横に振った。笑い返すどころか、笑い方さえも忘れてしまったのだ。
母が亡くなった、あの日から。もうずっと笑うと言う行為をしていない。
心の奥底で黒い何かが渦巻く。
(蓋を……しなきゃ……)
必死で抑え込む。ドアにもたれかかり、優子は深呼吸をした。
『俺はいつだって木元さんの味方だからね』
翼の言葉がふと頭をよぎる。
不思議だった。あの日、メールでそう言われただけなのに、それだけで何だか強くなれる。
胸の奥がほんのり温かくなる。こんな気持ちは初めてだ。