act.5 進行と逆行 4 | もしも君が迷ったなら

もしも君が迷ったなら

思いついた言葉を詩に。思いついたストーリーを小説に。

 着替えて一階に下りる。クッキーを焼いてくれたと言っていたので、キッチンに立ち寄った。
 義母は嬉しそうに紅茶の準備をしている。今から出かけるとは少し言いづらい。
「あ、丁度お茶の用意ができたわよ」
 優子に気づいた義母が声をかけた。廊下に立っていた優子はゆっくりとキッチンに入る。
「あら? もしかしてどこかに行く予定があった?」
 鞄を持っている事に気づいた義母がそう尋ねる。優子は軽く頷き、口を開いた。
「う、うん。健太くん家に……」
「そうだったの。あ、それじゃ、クッキーは持って行くといいわ。健太くんと食べて」
 義母はそう言うと、手早くクッキーをタッパーに詰めてくれた。
 ふとテーブルに目を移すと、せっかく淹れてくれた紅茶が悲しげな湯気を揺らしている。
「……お茶、いただきます」
 優子はダイニングの椅子に腰掛けると、淹れてくれた紅茶のカップを引き寄せた。
 そんな優子の姿を見て、義母が優しい微笑みを向けてくれたことに優子は気づかない。


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