この音は、伝説の・・・
そういえば、アレから1週間が経つ。先週の金曜日、上司(雇用主)から電話がかかってきた。
上司:「○○君(←私の本名)、パソコンお調子がおかしいんだ・・・」
私:「はあ・・・」
どうせ、いつもの操作ミスなどからの不具合だろうな、程度にしか私は思ってなかった。
上司:「パソコンから変な音がするんだ・・・」
そうして上司の声が遠くなる。しばらくして、
上司:「聞こえた?」
どうやらパソコンに携帯を近づけて、私に音を聞かせようとしたらしい。
私:「いえ、全く・・・」
上司:「・・・」
私:「どんな音なんですか?」
上司:「規則的にカタカタって言うんだ」
私:「ファンに何か詰まっているんじゃないですか?」
実際、その上司がパソコンを置いているところはホコリだらけかつタコ足だらけで、私から見ると“あり得ない扱い”をパソコンたち(←2台)は受けている。
私:「掃除機とかで吸い取れば大丈夫ですよ」
上司:「分かった。やってみる」
それで取り合えず電話は切れた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・?
・・・待てよ・・・
ひょっとして、変な音がして、立ち上がらないのか?
いやな予感がして、私はすぐさま上司のもとに向かった。その日の私の勤務地は別店舗(2号店?)だったのだが、本店(1号店)へと急いだ。途中、信号待ちで携帯電話を見ると、録音が入っている。上司からだ。再生してみる。
録音された上司の声:「やってみましたが、やはり動きません」
嫌な予感がますます大きくなる。
私:「不安になったんで来ました」
上司:「ご苦労さん」
私:「ちょっと見ていいですか?」
パソコンの電源を入れてみる。
パソコン:「じじっ・・・ふい~・・・・・・かたんかたんかたんかたんかたん」
私:(・・・こ、この音は・・・)
私:(・・・空中戦艦ミ○サ!!)
ではなくて、
私:(・・・ディスククラッッッッッシュ!!!???)
ここで、“ディスククラッシュ”をご存知ない読者のために・・・
“ディスククラッシュ”とは、ハードディスクの物理的な損傷。コレを診断されると、死を宣告されたのと同値。データ復旧サービスを行う会社があるが、『1GB=1万円』が相場らしく、重要な研究データが入っているとかで無い限り、個人や零細企業が利用できるものではない。
私:(・・・あまりの動揺に“ッ”が多くなってしまった・・・いや、落ち着け俺。)
パソコン:「かたんかたんかたんかたんかたん・・・・・」
ひとまず電源を切って。再び電源を入れ、セットアップに移る。
パソコン画面に表示されている英語の訳:「マスターが認識できないッス。ダメっすねええ。Aドライブにレスキューディスクでも入れれば?」
私:(・・・・・・終わった)
私:「物理的にハードディスクが壊れています。復旧する可能性は0.1%以下です。」
上司:「・・・・・・」
私:「・・・・・・」
上司:「・・・・・・」
私:「・・・・・・」
重い空気が漂う。なぜなら、このクラッシュしたパソコンは“数年分の会計データ”、“シフト表”、“顧客データ”、“その他重要データ”が入っていたのだ。
私:「とりあえず、こっち(他のパソコン)にバックアップデータを展開しましょう。バックアップデータは?」
上司:「・・・会計のデータはあるけど・・・」
私:「・・・・・・」
上司:「まあ、打ち込んでもたかが知れてるし、ハハハハ・・・」
上司の乾いた笑いが響き渡る。もちろん、響くはずは無い。もし響いているのだとすれば、それは私の頭の中にだろう。
上司:「でも、会計データだけでもバックアップ取っておいてよかったよ。外付けのハードディスクにきバックアップ先を設定したからね」
私は外付けのHDDドライブをもう一台のパソコンのほうにつなぎ、バックアップファイルを見てみた。
ファイルのコメント:「最終更新日は2005年の5月だぜ」
私:「このソフト、いつごろ買われました?」
上司:「昨年度の決算が終わって、今年のバージョンのやつを注文してから、届いて・・・5月くらいかな?」
再び嫌な予感がする。私は上司から渡された会計ソフトのマニュアルを見ながら、データを復元させた。
私:「僕が見ていいデータはありますか?」
上司:「どれでも構わないよ」
適当にデータを開いてみる。
・・・・・・・・・空っぽ
項目の設定はされているのだが、一切記録されていない。この半年もの間、ウチは1円も取引をしていないことになっている。
私:「・・・空ですね・・・」
私はマニュアルをよくよく読んだ。
マニュアル:「念のためにバックアップを取ったほうがえェんとちゃいます?バックアップは『バックアップ』ボタンを押すだけ!!楽勝っしょ!?」
どこにも自動保存ができるとは書いていない。どうやら、バックアップデータの保存先が外付けHDDに設定されているだけで、自動保存ができるというのは上司の思い込みだったようだ。
私:「バックアップデータ、ありません・・・」
上司:「・・・・・・・・・・・・・・・」
私:「・・・・・・」
上司:「・・・・・・どうしよう・・・」
※教訓
バックアップはこまめに取れ!!また、バックアップができているかどうかたまには確認しろ!!
P.S この話は事実に基づいて作られていますが、所々脚色を加えてあります。実際の私の上司は実に素晴らしい方で、上に登場するようなマヌケな方では決してございません。ご了承下さい。