少額訴訟(訴額が60万円まで)制度が設けられて、市民の皆様にも情報が定着してきた感じがします。実務に関与する資格者として、少額の事件について、あくまでも個人的な雑感を述べてみたいとおもいます。



私たち司法書士も法務大臣の認定を受けると簡裁訴訟代理業務を行うことができますが、少額訴訟による手続の代理を受託する際に頭を悩ますのが、依頼者の経済的利益です。


例えば・・・

マンションの管理費や修繕積立金を延滞する組合員に対しては、まず管理委託をしている管理会社が理事長に代わって督促業務を行います。この督促方法は延滞額が少額(1~2ヶ月)であれば、早期回収の実現可能性は高いのですが、1~2年間の延滞となると、督促だけでは回収できない可能性がかなり高くなります。


そこで、管理会社は訴訟による回収を管理組合に提案することになります。

滞納額が60万円以内であれば少額訴訟が可能です。また、管理規約に「回収に関する費用(訴訟費用、弁護士費用、司法書士費用)は違約金して、滞納組合員が負担する」旨の定めがあれば、これらも含めて請求できます。


では、滞納額10万円の場合・・・・

理事長自らが(経理担当理事等を代理人として許可を得る方法もあります)裁判所に出向いて訴訟を提起すれば、実費のみ(約7000円)で申立が可能ですので、負担が少なくなります。


しかし、自ら裁判所に出向く時間や裁判に対する知識が無くて面倒くさいと思われる場合には、訴訟代理人として弁護士や司法書士に委任することになります。

代理人に委任して訴訟を行うときは、着手金と報酬が必要となります。「法テラス」の法律扶助を基準にしても、着手金6万円、報酬が1万円の合計7万円となってしまいます。司法書士のホームページでも着手金の最低額を5万円としているようです。

訴訟費用は滞納組合員に請求できますから、回収できれば管理組合の負担とはならないのですが、裁判で勝訴しても、滞納組合員が滞納管理費を支払わなければ強制執行で回収するしかなく、その費用も発生します。強制執行する対象物が家財道具以外に見あたらない場合もあるでしょうから、訴訟が時効の進行を中断させるだけの結果に終わる場合もあります。


問題は、勝訴判決を得た後に、回収の可能性があるのかの見極めが大切です。滞納管理費の場合は、生活費の不足から延滞に陥っている可能性が大であり、円満に回収できない可能性があります。しかも、少額であれば不動産執行が困難な場合もありますので、家財道具、預貯金、給与、自家用車・・・等に強制執行することを前提に、少額訴訟を行うことになります。


もちろん、それまでの督促に対する態度に誠実さが無い・・・ということで訴訟に踏み切るわけでしょうから、それなりに組合は無形の利益を得ていると考えることもできます。


よく「司法書士は弁護士より安いから・・・・」という話を耳にしますが、司法書士の代理権は訴額140万円までしかありませんので、経済的利益に大きな違いがある弁護士とは報酬が大きくことなり、安く感じるのは仕方ないことですが、特に安いわけではありませんよ。


少額訴訟は、裁判所で書記官から手続の教示が行われますので、自分自身で訴訟を遂行することは、それほど難しいことではないかもしれません。

しかし、1回の審理で裁判が終わる訴訟ですので、しっかりした証拠書類の準備が必要です。

書類作成に関する相談も司法書士の業務ですから、裁判所に出向く前に、手続についての相談を行ってからご自分で訴訟を行うのであれば、相談料のみで手続ができることになります。また、専門家に相談することにより、現段階でどのような回収方法を行えばよいかのアドバイスを受けることにも意義があります・


専門家の活用方法を考えて、効果的な権利の実現をはかっていただきたいと思います。