つづきです。

 

 

2>「Novel」の意味

 新しいこと、人の知らないこと、見方が新しいこと

 

*語源はフランス語のnouvelle(新しい)。自分はすごい浮気をしている、それを書いたという奥さんがいたが、自分では珍しいつもりでも、浮気している奥さんなんていくらでもいる。読者にとっての新奇さが大切。

 

*乱歩賞で候補者5人のうち4人が各分野の専門家だったことがある。新人としてデビューするとき、自分の職業のことを題材にするのは、一つのやり方だ。私も図書館のことを書いた。

 

*職業のこととなると女性には不利な面があるが、例えば時代小説なら平等だ。江戸時代ばかりでなく、紫式部の時代のことをきちんと書ければ面白い。その時代に生きていた人はいないので、調べるしかない。調べるのはみんな平等だ。

 

*欧米の作品からヒントを得る=うまく盗む、というやり方もある。アメリカのミステリー(ハヤカワ)の内容を日本に置き換えてみるなど。山本周五郎はアイリッシュの「黒衣の花嫁」に感激し、武家社会に置き換えて「五弁の椿」を書いた。清張はダールの「狂気」の、肉を餅に変えて短編を書いた。

 

*新しい密室トリックを考えたら、文章が下手でも新人賞をとれ(すべて出尽くしたから)。文明の利器が変わってきたので、そこに新しいポイントを見つける手もある。推理小説は刑事小説や冒険小説などへ動いていく傾向にあるが、本格に戻る動きもある。

 

*「見方の新しさ」ということもある。向田邦子はみんなが知っている日常を扱っているが、それを見る見方が新しいのだ。

 

*神永学は20作書いたが、新人賞の1次にも通らず、人生の記念にと書きたいものを書いて自費出版した「霊感探偵八雲」で売れた。霊感と探偵という、本来はルール違反の設定をあえてしたのもすごいが、この目があったからだ!と思ったことがある。小泉八雲は片目が悪く、有名な写真は片側から撮られているのだが、神永はもう一つの目はどうなっているんだろう、人が見えないものを見ているんじゃないかと考えた。それが霊感探偵を生んだ。この見方が小説家のセンスなのだ。

 

*「ナポレオンと田虫」という小説を書いた。肖像画で腹に手を入れているのはなぜなんだろう。田虫がかゆいのか、と考えた。何気ないところに妙なものを見つけることができるか。そういう変な目で物を見てほしい。

 

 

3>ストーリーを求めて

 歴史、人の一生、心に留まる出来事、トリック

 

*1行目を書くときから最後まで決まっていないといけない。全体構想をきちんと作るのが基本。

新田次郎は新聞小説で、人生のそれぞれの場面や事件をつなげて長編小説を書いた。それも一つのやり方。

 

*最近、小説を一つ脱稿した。「愛しているけど信じていない」という言葉から発想した。愛していれば信じるのがふつう。ふつうと逆のことを考えるところからストーリーが生まれることもある。

 

※この項目は時間がなくなったのか、さっと通り過ぎました。

 

 

4>選考に関して 

 私には書けない作品を

 

*小説家を目指す人にはまず、「最後まで書くこと」を求めたい。途中で捨ててはだめ。こりゃだめだと思っても、がまんして、エンドマークをつけるまで書くこと。

「ナポレオン狂」はいま4稿目だ。1稿目は商品にならなかった。2稿目で商品になり、3稿、4稿と直した。今でもそうしている。まして、新人は書いたものがそのまま活字になるわけじゃない。途中で欠点がわかって捨てたくなっても、ミカン箱に入れておき、手を加えつづけてやっと作品になるのだ。

 

*文学賞に2つ応募する人がいるが、それだけでだめだと思う。一番いいものを見極める力が必要だ。

 

*直木賞あたりの選考の話。この作品、おれには書けないなと作家に思わせるようなものを書いてほしい。そのジャンルを長く読んでいる編集者は一番の目利きだが、編集者は過去(今までの作品との比較)を見ている。作家は未来(自分が書けるかどうか)を見ている。又吉さんのは書けると思う。藤原伊織のは書けないなと思った。高く評価した。

 

*小説雑誌を読んで「おれにも書ける」と思うことがあるだろう。その通り。慣れてくれば書ける。しかし、その作家はデビューのとき、新人賞を取ったときはすごくいいものを書いたのだ。新人賞を取るのは、人生の3本指に入るくらいの作品。そういうものに挑まなければならないのだ。

 

 

ふう。ひと休み。散歩に行ってきます。あとは後編(その他)です。