あんまりくだらないので、UPするのやめようかと迷ったんですが、

ま、どうせ使い道ないし、旅の恥はかきすて(意味不明)ということで……

ものすごい楽屋落ちです。

はい。中身からっぽです "(-""-)"

 

 

   公募小説
                                                  ◇TOBE 課題「かさ」
 
切り通しを抜けると、いきなり青い海が眼前に広がった。雲ひとつない空に、トンビがゆったりと輪をえがいている。
「おう。きれいだな」思わずため息をつく。
反応がない。
チラと助手席に首を回すと、沢子は心ここにあらずという風情で、視線を中空に投げている。唇がモゾモゾ動いているようだ。
「どうしたんだい。さっきから何か変だよ」
「は?」と、すっとんきょうな声が返ってきた。
「なになに。何の話をしているの」
「もしかして……また小説のことを考えてるのかい。久しぶりのデートなんだから、きょうは景色を楽しもうよ」
沢子は公募なんとか、という雑誌の愛読者で、毎月へたなショートショートを作っては応募しているらしい。結婚式の日取りが決まって寿退社したら、急に、女子大文学部のころの“小説愛”がよみがえったのだとか。
「ごめん。締め切りがあさってなのに、アイデアが浮かばなくて」
「今月の課題は何なの」
「『かさ』っていうのよ」
「かさって、雨の日に差す傘かい」
「それでもいいし、どんなかさでもいいの。課題はひらがなだから」
「はあ……」
あいまいな吐息をもらす。ブンガクは苦手だが、しばしつきあうことにした。
ふと、ひらめいた。
「そうだ。仕事帰りのバス停だよ。突然の雨に困っていると、通りがかった美人がさっと傘を差し出してくる。そこから恋が始まって……」
「ばかみたい」沢子がさえぎった。
「そんなありきたりの話、速攻で下読みさんに落とされるわよ」
ばかと言われてムッとしたが、かろうじて飲みこむ。
重たい沈黙がおりてきた。何を考えても、ありきたりと一笑に付されそうな気がする。
二人ともしゃべらない。かすれたエンジン音と、道路をこするタイヤの音だけが、規則正しく流れていく。
気まずい空気を変えようとして、
「そういえばさ。先週、うちの課に新人が来たんだけど……」明るい口調で話し出したとたん、
「やめて!」沢子が小さく叫んだ。
「『新人』って言わないで。それ、このあいだ落選した課題なのよ」
「ご、ごめん。……っていうか、知らないよ、そんなこと」
つい、けんかごしになってしまった。
「デートなんかするんじゃなかった。家でアイデアを考えていればよかった」ぽつりと沢子がつぶやいた。
「えっ。誘ったのはそっちじゃないか。ちょうど『桜』が満開だからって」
「ぎゃっ!」
踏まれたネコのような声がはじけた。何なんだ一体。わけがわからない。
込みあげる怒りを、むりやり抑えつける。イライラ運転は危ない。空の上のほうで、トンビがふらふらと蛇行していた。
「あれ? あのトンビ、うまく飛べないのかな」
思わず口にした。
「飛べない……とべ……」
沢子がぶつぶつ、念仏のように唱え出す。いきなり、わめき声が破裂した。
「何回も説明したじゃない! 『とべ』じゃなくて『トゥービー』だって。……ほんとに何もわかってないのねあなた。この結婚、もうだめかも!」
思わず振り向くと、怒りと軽蔑の炎が、沢子の両目のなかでメラメラ燃えていた。
ドン、と激しい衝撃があった。
 
海の青色が、視野の右半分で揺れている。
あ、やっちゃったんだな。他人事のようにぼんやり考える。沢子の声らしい、キーンという高い音が聞こえている。トンビはどこにいるんだろう……
フロントガラスいっぱいに、黒々とした岩が広がった。
ふと、仕事帰りのバス停で、きれいな女性が傘を差し出してくる光景が目に浮かんだ。
そうだ。あそこから、ぼくたちの恋が始まったんだ……
赤い傘は風に飛ばされてゆっくりと舞い、空と海の境に吸いこまれるように小さくなって、ふっと消えた。