ブログ、しばらく放置プレーでした。

プライベートを含めいろいろドタバタしていて、心身とも低調でした "(-""-)"

今も引き続き低調なんですが、「ブログをひと月放置するとエッチな広告が入る」といううわさを聞き(フェイクか?)、とりあえず記事を入れておくことにします (*´`)

 

創作も「まゆ国」も気力が出ないので、最近のとべ落選作をのせておきます。

とべ今月はパスします。

できれば「日産童話と絵本のグランプリ」(10/31、50万円((;゜Д゜)))は何とか出したいんですが、これも無理かもです(ぜんぜんアイデアがわかない _| ̄|○ )

 

 

 
   御利益
                                        *TOBE課題「質屋」
 
「ちょっとヤオタツに行ってくるね」
 どたどた廊下を早足で歩いてくると、三和土(たたき)でサンダルをつっかけながら、妻の香苗が言った。「何か食べたい物ある?」
「そうだなあ……」カウンターの前で香苗の方に首を巡らせて三秒ほど考えていると、
「行っちゃうよ。何でもいいね」言うが早いか、ガラガラ大きな音を立てて表へとび出していった。
 あわただしいことだ。たぶん、半額だったんだよとうれしそうな顔で、好物の刺身を見せてくれるだろう。
 香苗と入れ違いに、制服を着た若い警察官が、こちらは遠慮がちにガラス戸を開けた。
「こんにちは」
 駅前交番の巡査だった。もう夕方だが、私は巡査に合わせて挨拶を返した。
「実は、正縁寺で仏像の盗難がありまして」
「ああ、知っていますよ。署の方からさっきファックスが入りました」
 正縁寺はこの地区でただ一つの寺だ。江戸時代の創建らしいが、小さな本堂と庫裏があるだけで、年老いた住職が亡くなれば廃寺になるだろうと町内会では噂している。
「もし犯人が質入れしにきたら、すぐ連絡いただきたいと思いまして」
「もちろん承知しています。……しかし、こんなに近くで処分しようとは思わんでしょうな。隣の県に出向くんじゃないかなあ」
「まあ、そうでしょうね」巡査はうなずいた。
「しかし、ご住職、本堂に鍵を取りつけてなかったそうなんですよ。このご時世に不用心ですよね」。自分たちが防犯活動に励んでいるのに……という非難が少しこもっている。
「あそこのご本尊、ご覧になったことありますか」
「ええ。子供のころから何度も見ています。たしか、聖観音菩薩だったかな」
 巡査は仏像の種類には詳しくないらしい。曖昧な相づちを打つと、敬礼して出ていった。
 
「そういえば、買い物に行く時、お巡りさんが来たみたいだったけど、何だったの」
 となりの布団で、香苗が言った。
「いつもの盗品手配だよ。正縁寺の仏像が盗まれたらしい」
「罰当たりなことをする人がいるのねえ」
「うん。御利益のある観音様なのにな」
「そうなの?」
「ああ」と私はつぶやいた。しばらく黙っているうちに、すうすうと香苗の小さな寝息が聞こえてきた。
 五分ほど待って、私は起き出した。
 隣の三畳間に入り、押し入れから細長い風呂敷包みを取り出した。
 座卓のうえで紺の風呂敷を広げる。聖観音菩薩像が穏やかな笑みを浮かべている。
『土蔵を整理していたら、こんなのが出てきてね』──けさ、初老の男がそう言ってこれを持ち込んできた時、私はすぐにピンと来た。身分証の提示を求めることもなく、買い上げると言うと、男はほっとしたように貧相な顔を崩した。
  座卓の抽斗(ひきだし)から道具を取り出す。菩薩像を逆さにしてしばらく眺め、そっと手を合わせたあと、私は道具を押し当てた。
 まさか三十年も経って、こんな事態が起きるとは想像していなかった。忘れていたというより、まあ何とかなるだろうと高をくくっていたのだ。
 もしかしたら、あの泥棒、詳細に仏像をチェックしたかもしれない。警察につかまって、おかしなことを供述されても困る。
  二十分ほどで作業を済ませると、私は風呂敷包みを小脇に抱え、忍び足で家を出た。
 
「こんにちは。正縁寺の仏像が戻りました」
 ガラス戸を開けるなり、巡査はにこやかに言った。
「戻った?」
「ええ。不思議な話なんですが、けさ住職がお勤めしようと本堂に入ったら、仏像が戻っていたそうなんです」
「そりゃ良かった。泥棒が思い直したんでしょうかね」
「観音様のお導きだと喜んでいました」
「で、仏像は傷つけられたりしていなかったんですね」
「ええ。何も異状はなかったようです」
  ──高校の卒業式の夜だった。
 懐中電灯の光のなかに、ぼうっと浮かびあがった菩薩像。祈願の言葉を唱えながら、私は台座の裏に、ボールペンでせっせと彫り込んだ。
『祥一・香苗』の相合い傘。
 紙やすりで削り取った跡も、なんとか気づかれずに済んだようだ。
「ほう、それは何よりでした」
 頬をゆるめ、若い巡査に向かって私は三回うなずいた。