でも渡邉さんは、成績優秀だ。

それなのに何故部活を辞めさせられたのだろう。


その事を渡邉さんに尋ねてみると、その時の事を思い出したからか、
哀しそうに微笑んでから答えてくれた。


理:私ね、勉強ができない訳じゃないの。でもテニスが全く上達しなくてさ...。
ある日顧問に言われたんだ、
「お前が、部活に居る意味ってあるのか?
部活を辞めて、勉強だけに力を入れたらどうだ?先生はその方が良いと思う。だからもう明日から来なくていいぞ。」
冷めた目で、私はそう言われた。


何それ、顧問最悪じゃん...。


渡邉さんの話を聞いて、私は顔を曇らせ俯いていた。

すると、渡邉さんは私の顔を両手で起き上がらせて、笑顔でこう言った。

理:この学校っておかしいよね!

渡邉さんの言葉に、コクンと頷き

志:いい大学に進学させる事しか、この学校の先生達は考えてないんだよ...。

この学校にはウンザリ。

そう思いながら渡邉さんに伝えると、うんうんって頷いてくれた。


話に夢中になっていると、いつの間にか部活動を終えた生徒が、ゾロゾロと体育館から出てきた。


少し前まで一緒に部活をしていたバレー部員達は、私に声をかける事なく、目も合わせずに素通りしていった。

それが悲しくて、自然と溜息を吐くと、


理:志田さんはバレーが好きなんだね...。

渡邉さんは切なそうにそう言った。

志:うん...。

返事をして、もう一度体育館を見ると、
丁度体育館から出てきた、バレー部の顧問と目が合った。


パッとすぐに視線を逸らしたけど、足跡が近づいてきて
ゆっくり顔を上げると、目の前に顧問の先生が居た。

そして腕を組み、冷ややかな目を私に向けてから顧問の先生は口を開いた。

顧問:こんな所で何やってるんだ?戻れないバレー部でも見てたのか?
そんな暇があるなら勉強しなさい。

志:ッ...。

顧問の言葉に腹が立った。
戻れない、そう決めつけられて...。

すると、渡邉さんが話に割って入った。

理:志田さんの限界を、勝手に決めないでください!

渡邉さんがそう言うと、顧問の先生は冷ややかな視線を私から渡邉さんの方に移動させて、
呆れたように溜息を吐き、渡邉さんにこう言った。

顧問:渡邉、お前も勉強しろ。
今成績がよくたって、それをキープしつつ更に上げていかなきゃ意味が無いんだぞ。
自分を優秀だと思い込むな!


そう言ったあと、
言いたい事を言い終わったからか、顧問の先生はその場を去っていった。


私をフォローしてくれた渡邉さんも、バレー部の顧問に酷いことを言われてしまった。

私と一緒に居たから...巻き込んじゃった。


申し訳ないな...。そう思っていると、

理:気にすることないよ、それともう遅いし帰ろっか!

渡邉さんは傷つかなかったのか、それとも顧問の先生の言葉を気にしなかったのか、
笑顔で私に手を差し出した。

自己紹介をされて、手を差し出された時は握れなかったけど、
今はスっと自然に腕が動いて、渡邉さんの手をギュッと握った。


そして何故か私達は手を離すことなく、そのまま薄暗くなった道を歩いた。