お世話になっております。

強引ぐマイウェイ話にお付き合いくださりありがとうございました。最後まで強引ぐマイウェイを通しましたが、ようやく終わります。

なんとなく……………ホッ(  -。-) =3





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






俺、社倖一は、敦賀蓮のマネージャーとして、彼の仕事がスムーズに進み、成功することを願っている。そして今まで、そうなるための努力は怠らなかった。

だが、身長差のドラマの最終話……………小花苺さんを相手役としての撮影が失敗に終わることは、正直なところ、俺の力の及ばない領域だと思っていた。

多忙な蓮には、ドラマを何度も撮り直す時間の余裕は無い。リテイクを繰り返され、撮影終了の目処が立たなければ、制作者側の意向により、今回のドラマは無かったことに……………なんてことにもなりかねないのだ。


敦賀蓮の参加したドラマがお蔵入り…………………………そんなこと、そんなこと!!

ああっ!!誰か、苺さんのトラウマをなんとかしてくれないだろうか〰っっ!!!








そんな切実な想いを抱えた俺は、ドラマの撮影当日に戦々恐々と現場に乗り込んだ。

ところが、ところがだ。

現場に現れた苺さんは、完全に別人と化していた。


ドラマの撮影が終わったあと、苺さんは、豹変した態度の種明かしとして、「とある人の協力のおかげ」と言っていたけれど。なにはともあれ無事に撮影が終了し、関係者一同安堵したのだった。



それにしても、苺さんを変えた人物……………一体誰なのだろう……………。








それから3日後のこと。

俺は、苺さんの態度を一変させた人物が、他ならぬ俺の担当女優である「京子」だと知ることになる。






俺と蓮は偶然にも、LME事務所の正面ロビーのフリースペースで、パーテンションと観葉植物越しに、キョーコちゃんと隣り合って座った。

キョーコちゃんは椹さんと他社の職員と一緒にいて、簡単な書類確認を行っていた。おそらくは俺が朝手配しておいた案件だろう。最近決まったばかりの、キョーコちゃんの仕事の最終確認用紙に不備があり、担当者が訂正したものを持参しに来たのだ。その場にあとから来た俺と蓮は、このあとの仕事のために人待ちの最中で。俺と蓮はそのフリースペースのテーブルについてから、隣から聞こえてきた声で、キョーコちゃんと椹さんの存在に気がついたのだ。

今朝の段階で、蓮とキョーコちゃんは朝の挨拶は済ませてある。でも、キョーコちゃんの顔が少しでも見たいらしい蓮は、椅子からサッと腰を上げた。ところがすぐに、LME所属の女性タレント達に囲まれてしまう。俺と蓮は、恐らくはすぐにLMEの正面玄関に迎えに来るであろう車を待っている状態で。なのでまあ、元々キョーコちゃんとは会えない予定だったし、蓮には「今は諦めろ」と視線を送った。…と、椹さんと担当者が一旦離れ、キョーコちゃんがその場に一人残された。


そして俺はかなり驚いた。なぜなら、視界に苺さんの姿をみとめたから。






「京子ちゃんっ、こんにちは!」
ロビーの柱の影から現れた苺さんは、真っ直ぐにキョーコちゃんに向かっていった。

「あ、苺ちゃん、こんにちは。…今日はどうしたの?」

キョーコちゃんに駆け寄った苺さんは、京子ちゃんに会いにきたの、と言い、ドラマの撮影が無事に済んだことを報告していた。


イレギュラーな形で芸能界に飛び込んだキョーコちゃんはしかし、着々と人脈を広げている。あの魅力的な人柄のおかげだろう。俺がそう感心している中、いやに声が大きめの苺さんはまわりを憚る様子はなく、話しを続けた。


「あのドラマを逃げずにやりきれたのは、全部全部、京子ちゃんのおかげだよ!京子ちゃんが、『敦賀さんに抱き締められるとすごく気持ちがいい』って教えてくれたおかげなの!本当に本当にありがとうっ!!」

うはぁっと、にこにこニパニパ全開声で、苺さんはキョーコちゃんに言い放った。


その代わりと言ってはなんだが、それを観葉植物とパーテンションを隔てただけのこちら側で偶然聞いてしまった俺と蓮は、音を立てて一瞬で固まった。




え?最上さんが?『俺に抱き締められると気持ちがいい』って?え?、うそ、ほんと?ほんと?ほんとのほんと?ね、最上さん!ほんとに!?



俺の隣に立つ、尋常じゃないレベルで我慢の限界にある男が、脳内でキョーコちゃんにそう問いかけたのを俺は肌で感じた。




……………てゆーか蓮君……………。キミ、キョーコちゃんを抱き締めたりしたの……………い、いつ……………?

と、俺も脳内で問いかけながら……。



何より、ガゴゲッッッ!!!と空気を震わせてキョーコちゃんが固まったのを、俺は強く感じていた。きっとキョーコちゃんは、こちらの女性タレントの騒ぎを聞いて、パーテンション越しに蓮がいることに気づいているはずだ。

それに、キョーコちゃんだけじゃない。苺さんも、俺達の存在に気づいているはずだった。なぜなら柱の影から出てきた彼女とは、俺は少しだけ目線が合ったから。なのに彼女は、あれやこれやを明るく暴露しはじめた。


その内容は衝撃的なもので。


蓮なんて、目の前のタレントさん達の話し声なんて全く聞いていない様子(DMのパーティーの時のように聖徳太子よろしく、こちらで話をながら、キョーコちゃん側の話を聞くという余裕はなかったらしい)で、固まったまま苺さんの声をガン聞きしていた。というか、女性タレント達も、「え?」「なんの話?」と動揺しながら、チラチラと隣を気にしている。



「まあとはいっても私の場合は、敦賀蓮さんの抱擁を、京子ちゃんが感じるみたいに気持ちがいいものとまでは思えなかったけれど。でも、京子ちゃんの言う通り、あったかくていい匂いはしたよ!」

「ぁっ、と苺ちゃ」

「やっぱり、男性の抱擁にうっとり感じちゃうためには、敦賀蓮さんと京子ちゃんみたいに、想い想われてるラブラブな男女じゃないとだめなのかね〰!」

「い、苺ちゃんっ!」

「ん?」

「その話は…っ、」

「でね!私ね!はじめて恋愛ドラマを演じて思ったの!男の人も、恋愛もあながち悪くないなって。でさ!目標ができちゃった!」

「も、目標っ?」

「うん、あのね!私が男性嫌いのトラウマが完全に克服できて恋人ができたあかつきには、ダブルデートしたいなって!京子ちゃんと敦賀蓮さんのカップルと!」

「いち「あとね!ああやって、男の人から、好きだよって気持ちのこもった、抱擁をされたいなって!敦賀蓮さんと京子ちゃんみたいに抱き締め合いたいの!!」」



………えはぁっっ!!?
なんだすとっ!!!?




俺が、あまりのびっくり発言に、それこそびっくりしていた時。


キョーコちゃんが苺さんに制止の言葉を叫ぶのと、蓮が動いたのはほぼ同時だった。


「いちごちゃんっ!!!!」
「最上さん、こっち!!」

蓮はキョーコちゃんの手首を掴むと、パニックを起こしているキョーコちゃんをなかば引きずるように走っていってしまった。


反射的に、俺はその背中に向かって叫ぶ。

「蓮っ、5分っ、5分だけだぞ!!」

正直俺は、数日前から、蓮とキョーコちゃんの様子ががおかしいことには気づいていた。

蓮はキョーコちゃんに何か言いたげで、でもキョーコちゃんは、それに気づかないふりをしている。

そんな二人の一番近くにいる俺は、何かあったのかなとそわそわしていた。そして、なんとかしてあげたいなとやきもきしていた。








蓮とキョーコちゃんの背中が見えなくなり、とりあえず俺はもう待つしかないなと思った。女性タレント達は、相当困惑した様子でテーブルを離れていく。

俺は自身を落ち着けるためにふうと息を吐くと、俺と同じく蓮とキョーコちゃんの背中を見送っていた苺さんと、バチリと目が合った。



「あ、えと………小花さん…お疲れ様……………」

「あ、お疲れ様です…………えと…お二人のマネージャーさん……ご迷惑おかけして…すみません………。こんなところで言ってしまうつもりではなかったんですけど…」

苺さんは首をすくめて、申し訳なさそうに言った。

「…や、なんか、すごい………ね。……………正直、驚きました……」

「……………自分でも、やってしまった感はあります…………。でも、恩返しするなら、もう今しかない、逆にギャラリーがいた方が逃げ道が塞げる、と思ってしまって。そしたら、もう勢いで………」

「恩返し?」

「はい、さっき言った通りなんです。私がドラマの撮影に臨めたのは、あの二人のおかげなんです。」

「……………へえ……」

「実は先日のことなんですけど。トラウマに苦しむ私を助けようとしてくれたキョーコちゃんと、私を助けてあげたいなと思ってくださっていた敦賀蓮さんに感謝の気持ちを持ちました。」

「へえ。」

「で、その後に、京子ちゃんと敦賀蓮さんが二人きりで話しているところを目撃しまして…………。」

「うん。」

「その会話を聞いていたら、二人がただの先輩後輩じゃなく、ただの両片想いだけでもなく、ややこしくて複雑な両片想い関係にあることを知りまして……………。」

「あ、あ〰」

「あのですね、私の、敦賀蓮さん嫌いを克服しようとしてくれたキョーコちゃんのアイデアがものすごく斬新だったんです。その熱意もすごくて。……………それで強く感じたんです。やっぱり、積み重なったしこりは普通の方法じゃ解決しないんだって。」

「……うん。」

「なので本当は今日は、ここへはマネージャーさんにアポをとりにきたんです。」

「え、自分?」

「はい。……………考えていた方法もすごく強引な方法だったんですけど、社さんに協力を仰ぎたくて……。」

「強引な?」

「はい。京子ちゃんと敦賀蓮さんの二人の顔を突き合わせておいて、逃げられない状態で私が京子ちゃんの気持ちを暴露してしまおうと………。えへへ……………。……先日見た様子だと、敦賀蓮さんの方は、もうつつけば破裂しそうな風船みたいだと思いました。きっと、京子ちゃんの気持ちを知れば、『やってくれる』んじゃないかって…………」

「あ、あ〰……………」
ああ、あいつ、キョーコちゃんへの気持ちがただ漏れだもんな……………。

「あ、でも、なので、今日はマネージャーさんを巻き込まなくて済んでよかったです。私一人の暴走ってことで済みました。私は京子ちゃんへのお礼に、敦賀蓮さんと本当の両想いにして、幸せに笑わせてあげたいと思ったんですけど。でもこれは……場合によってはとてつもなく大きなお世話になりかねないことですし…もしかしたら、私、二人から恨まれるかも……………」

苺さんが、恐縮した様子で言った時だった。

「恨むだなんてとんでもない。俺は感謝しかありません。」

「蓮っ、」
「敦賀蓮さんっ、」

「小花さんへは、ありがとうございますの言葉しか、ありえません。」

「いえ……………私の無茶ぶりがお役に立てたのなら、本当によかったです…………」

「蓮、お前それじゃあ……」

「いただいた時間で、思いつく限りの言葉を全部使って………告白してきました!」

「ぅええっ!!?」
いや、きっとそうなるだろうとは思ったけれど、ついに?ついにかっ?

「でも、まだです。彼女は、まだ受け入れてくれてません。だけど、今夜また会う約束を無理矢理もぎ取ってきました!」

「そ、そうか。」

「先輩としての立場を失うことに、怯えてる場合じゃなかったんですよね。だって、もうその立場には価値のないことを、俺はずっと自覚していたんですから……………」

「蓮………」

「………最上さんの中に、俺への好意が芽生えているのなら、俺はもう突き進むしかないんです。俺は………彼女を諦めることなんてできないんですから…。」

「……そ、そうだな……。」
おわっ、すごいな。まるで脱皮したみたいだ。撮影現場に現れた苺さんじゃないけど、まるで別人みたいな……………。……………いや、別人というか、しがらみを取っ払ったら、『本来の状態』に戻ったってこと?

「社さん。」

「…お?」

「俺……頑張ります!最上さんを手に入れるために全力で頑張ります!…だから、社さん!全力で応援してくださいねっ!!」

蓮は、それはそれは吹っ切れた爽やかさで、でもパワフルなやんちゃさで、力強く言いはなった。

「お、おうっ!もちろんだ!うん、もちろんだよ!!お兄ちゃんに任せとけ!!」



おおー!蓮。いつものおすましした綺麗な笑顔もいいけど、そんな顔も可愛いな!よっしゃ、二人のお兄ちゃんとして、いっちょやったりますか!

俺も全力で応援するぞと、腹をくくる。

「………あ!あの車、〇〇〇代理店の迎えの車じゃないですか。社さん、行きましょう!」

今夜の時間を空けるために俄然やる気モードの蓮は、正面ロータリーにつけた車を認めると意気揚々と歩きだした。



「敦賀蓮さんは、もう大丈夫そうですね………。」
ずっと黙っていた苺さんがそう呟く。

「ああ、うん。みたいだね。」

「あとは…京子ちゃんが、見上げてくれれば…………。敦賀蓮さんみたいに素直な自分になって、敦賀蓮さんの愛情たっぷりなお顔を見上げさえすれば……………」

苺さんはそう言って、まだ京子ちゃんが戻ってこない廊下を見つめた。

「うん、京子ちゃんも大丈夫………。蓮が……………きっと見上げさせるさ。」

「社さんっ、早く早く!」
蓮が俺を急かす声をあげている。

苺さんはそんな蓮を見て、「………ですね!」とおかしそうに笑った。











そして、やはりその通りに事は動いた。

俺は、とろとろに蕩けた視線でキョーコちゃんを見下ろす蓮と、想いのこもった熱い目線で蓮を見上げるキョーコちゃんを、誰よりも目撃することになるのだった。