どーもです。




を必ず御一読くださいませ。



このお話は、特に、ぽてとが自由気ままに書いていることをお忘れなきよう…………。



途中、二人の行為の描写が、わりと露骨かもしれません。嫌いな方はお気をつけくださいませ。個人的にはすごく抑えたつもりなのですが……………。すみません。




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なにも知らないふりを、した。

気づいていないふりを、した。

そして私は、久遠の一生を手に入れるための、恐ろしい計画を立てた。





妊娠出産を、無事にやり通したい……………いえ、絶対に、やり通してみせる……………!









私はまず、できるだけ早く妊娠しなければならなかった。なぜなら、私が妊娠する前に、久遠が別れ話をしてくる可能性があったからだ。たとえ妊娠してしまえばこっちのものだとしても、そもそも久遠に抱いてもらえなければ話にならない。

だからといって、私はすぐに妊娠するわけにもいかなかった。私には、『女優京子』としての仕事がある。既に契約済みの仕事の内容的に、私はまだ妊婦になるわけにはいかなかった。


そう、とにもかくにも準備が必要だ。


まず、計画の大前提として、私の勝手な都合で仕事に穴を開けるのは嫌だった。もちろん違約金で事務所に迷惑をかけるのも。そして誰よりも、私を頑張って世間に売り込んでくれている、大切な社さんの顔に泥を塗りたくはない。社さんが、契約先に頭を下げるのだけは絶対に嫌だった。

さらに勝手なことに、仕事に真摯な久遠に幻滅されるのも、嫌だった。久遠を騙して妊娠しておいて、仕事も中途半端では、久遠に軽蔑されるだけではすまされない。いくら結婚できたとしても、それではさすがに悲しすぎる。


結局私は、それらを解決する方法として、『留学して勉強したいので、仕事を休む』という苦肉の策を絞り出した。今の私が仕事を一旦休みたいと言えば、周囲からは絶対に『もったいない』とか、『それは今するべきでない』といった、反対意見が出るだろう。だとしても、私は私の意見を貫き通すしかない。そう、説得の文句はこうだ。「『女優京子』としてさらに高みに昇るために必要だ、『演じる』ための引き出しを増やしたい」。そして、実際に私はそう言った。頑張って、説得し続けた。






次に、計画の遂行のために気掛かりなこと………それは「流産」だ。私は、流産の原因をひとつでも減らしたかった。私の仕事は生活が不規則になりがちで。くわえて、時には体に負担をかけるもの、ある程度怪我が前提になるアクションもこなさなければならない。だから、それらの危険因子を絶っておきたかった。だって、妊娠のチャンスは1回きり。この妊娠は、排卵日を偽るからこそ成立するのであって、一度騙された久遠が二度も騙されてくれるわけはない。だから、絶対に流産するわけにはいかなかった。色々と調べていくなかで知ったけれど、流産の原因は不明なものや、胎児側に理由があるものもあって。それは私にはどうしようもないけれど、せめても、私が自分でなんとかできる環境だけは整えておきたかった。









これは、神と悪魔の戦いだ。


煌めく世界の住人である久遠。その彼を守護する神が勝つか。私の願う悪魔が勝つか。



絶対に、失敗は許されない。


私は、この戦いに勝ってみせる。


久遠と、結婚してみせる………!












私は、久遠の人生を手中におさめんがため、虎視眈々と機会をうかがっていた。

久遠と会う時も、電話やメールでやり取りするときも、いつでも気を張っていた。久遠の気持ちが私から離れていかないように、そればかりを願っていた。重い女にはならないように、でも、久遠にとって可愛い存在であるように。踏み込みすぎない程度で、久遠が注いでくれる愛には、あたたかな笑顔で応えた。


そうして。

8ヶ月後、計画通りに私は、久遠とベッドの中にいた。



私が休暇を利用して久遠の部屋に押しかけた形だけれど、久遠は私が見る限りは、とても喜んで迎え入れてくれた。









「ね、くお、ん……………」

「……………ん、……ちゅ。なあに?」


…………よし…、久遠の声はリラックスしている。お酒、たくさん飲ませたし……………。

今なら、騙せるかも。

騙されてくれるかも。

いえ、騙してみせる。

強い決意をこめて、私の胸元に埋まる久遠の頭頂部を見つめた。


ふっと、息を吐く。

いよいよ計画も大詰めだ。

ここでミスをするわけにはいかない。

落ち着いて、言うの。


「………あの、ね、…くおん………………つけずに…………………………えと、ね、……………そのまま、とか……………だめ?」

私は甘い表情を作り、次いで、小さく小さくおねだりするように囁いた。

しばし固まって、パッと顔を上げた久遠は、目を瞬いて私の顔を見る。

「……………へ?」

「…………………………だめ……?」

「……………って、ゴム、の、こと?」

「ぅ、うん……………………………。…………やっぱり、だめ、かな、…………」
と私は引くそぶりを見せながらも、また一押ししようとした時だった。

慌てたような久遠が、「だ、だめっじゃないけど、ダメじゃないけど……………とうしたの…急に……………」と、オロオロとしたように言ったのは。

「………………………………………ぇ、と。あの、ね、軽蔑………とか、その」

「や、……………しない、しないよ!……………ね、キョーコ……どうしたの?なにかあった?」
今度はなんだか心配げに私の瞳をのぞきこむ久遠。

「ううん、なにも…………………………ただ、大好きな久遠と……………何も隔てないで、ひとつになれたらなって……………」

「……………キョーコ……………」
驚く久遠。

「いつもね、離れ離れだからね、一緒にいる……………今のこのときは……………久遠の一番近くに……………いさせてほしいなって……………」

「キョーコ……………」

「あ、あのね、安全日なの!だから、その…………………………その、久遠には安心してほしいと言うか……………、だから、」

「う、うんっ、うん、ありがとう……………すごく嬉しい……………」

「くおん……………」

久遠、もしかして……………私の罠にかかってくれたの…………………………?



その時だ。また私の中に声が聞こえる。

《あ、でも……………でも……………、》

《まだ逃げられる……………よ?》

《久遠、まだ間に合うんだよ?》

《今なら、あなたを逃がしてあげられる。》

《まだ、あなたは自由なんだよ?》


どうしたことか、この期に及んで、大切な久遠の未来を奪ってはいけないと、私の良心が小さい声をあげている。

でも、悪魔に魂を売った私は、その声をねじ伏せた。


両手を広げて久遠を求める。

「いい、の?久遠………わたしの……お願い……………きいてくれる?」

「うん、キョーコ……!…俺、すごくすごくすごく嬉しいんだ………本当に嬉しいんだよ…………………愛してる…………………………」

「くおん、大好き…………………………いっぱい、して?」


《久遠、久遠…………………………ごめ、ごめんっ、ごめんなさい……………っっ、ごめんなさい……………っ!!》

私の中で、良心が泣きながら謝っていたけれど。でも、久遠を失いたくない私は、久遠にしがみついて離さなかった。








翌朝……………。

私の体の様子をうかがった久遠は、
「こっちにいる間……………も、ずっと大丈夫な日……?」と聞いてきた。

「う、うん。」

「じゃあ……………今夜も明日も明後日も……………ゆうべみたいにしてもいいの?」

「うん……………して、くれる……………?」

「……………やった、」

そう、小さく呟いた久遠の笑顔は、とても可愛いらしかった。あの、夜を彷彿とさせる妖艶な笑顔ではなく、屈託のない無邪気な、そんな笑顔だった。


私も、はにかんで笑った。

唇に、優しいキスが降ってきた。




あたたかな腕に抱き締められて、気持ちが蕩けてくる。そんな私に、無視されていた私の良心が、再び久遠に何度も謝っているのが聞こえてくる。

《ごめん、ごめんね、ごめん!久遠、ごめんなさい!安全日だなんて真っ赤な嘘。危険日ど真ん中……………排卵日なんだよ……!!ごめんね、ごめん……………!!》

そしてその謝罪の叫びを、私の中の悪魔は、しつこいな、うるさいよ、と一蹴した。





結局、久遠の部屋に滞在している間、私は「子作り行為」に勤しんだ。

あの手この手で久遠を騙そうと思っていた私は、少し肩透かしをくらった気分だった。久遠は、私の嘘に完全に騙されたようで、一切避妊具を装着することなく、毎夜私を愛してくれた。

今回の件で、私は少しだけ、心配になったことがある。久遠はよく、『キョーコは素直で騙されやすいから心配だ。』と言ってくるけれど、久遠だって騙されやすい?のかな、と。だって、安全日だなんて100%嘘なのに、久遠は完全に私の嘘を信じてしまったもの。その結果、何回も何回も私の中に致してしまって……………。まあ、避妊具を装着しない方が気持ちがいいから、着けたがらない男性が多いとはきくけど、実は今まで私の妊娠が恐くて言い出さなかっただけで、久遠もそうだったのかなと思った。でもだとしても、本当に安全日なのかということを自分で計算したわけでもないのに、久遠は信じてしまって………。やっぱり久遠は『騙されやすい』んじゃないのかな。……………まあ、こればっかりは久遠に、忠告するわけにはいかないけれど。『久遠てばなんだか迂闊だぞ』、と自分の行動を棚に上げて、久遠のことが心配になっていた。