SS 隠さなくていい恋心 | 有限実践組-skipbeat-

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こちらは蓮キョ中心、スキビの二次創作ブログです。


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 お久しぶりでございます。一葉です。いや、本当に久しぶりだよね・・。ごめんなすって。

 こちらのお話は原作派生となります。話内にネタバレはない(つもり)なのですが、後述コメントにネタバレが含まれております。ご注意くださいませ。

 


■ 隠さなくていい恋心 ■

 

 

 

 

「ねぇ、アンタ。今日これからどっか行くの?」

 

 現在時刻21時ちょっとすぎ。

 映究での模擬撮影が終了し、あらかた荷物をまとめ終わったところでモー子さんが口を開いた。

 

 言おう、言おうと決意を固めていた最中だというのに、先回りされて若干返事を言い淀む。

 

 

「え。ああ、うん、ちょっと・・実はそうなんだよね」

 

「ふぅん。どこに行くのよ」

 

「えっ?えっと、え?うん、なんで?」

 

 

 口ごもり気味の私の受け答えが気に食わなかったのか、無表情が通常運転の美しき親友の切れ長の眼差しがそこでついっと細まった。

 

 

「・・・・・・ま、いいけど。濁すってことはそうなんでしょうから」

 

 

 そうなんでしょう・・・とはいったいどういう事だろうか。

 親友モー子さんに視線を向けたまま僅かに眉間にしわを寄せた私を見て、モー子さんは私以外の他者には気付かれないぐらいの微苦笑を浮かべた。

 

 

「別にいいわよ、何を言わずとも。ほら、来たみたいよ。あんたの目的地が」

 

「・・は?」

 

 

 顎をしゃくられて視線を滑らせ、こちらに向かってくる敦賀さんを見つけて反射的に顔をそむける。首がグキっとなっちゃったけど、発生した痛みは華麗に無視した。

 

 なぜなら口元が緩みそうになってしまったから。些末なことに気を取られる余裕などない。

 

 やばい。

 たぶん間違いなく今の自分の顔は挙動がおかしいに違いない。その証拠にモー子さんの右手が私の額をペシンと叩いた。

 

 

「うっ!」

 

「駄々洩れ。真っ赤よ」

 

「・・・っっ、違う、別にそんなはず・・っ」

 

「ハ・・・。別にどうでもいいけど。ところでもう荷造りはできたの?」

 

「あ、ああ、うん、あらかた、大丈夫」

 

「そう、良かったわ、こっちもよ。じゃあ先に帰るわ。お疲れ様」

 

「あ、うん、お疲れ様、モー子さん」

 

 

 モー子さんが言った荷造りとは、現状のことではなく渡米の荷物のことだ。

 来週ようやく私たちはアメリカに出発する。

 

 それぞれのスケジュールに合わせて各々現地入りするので向こうでチームが揃うのは少し時間がかかるだろうとのことだった。

 

 

 荷物を抱えて敦賀さんの方へ歩いてゆくモー子さんの背中を見つめ、二人がすれ違ったタイミングでこちらに向かってくる敦賀さんに視線を移した私は顔面に力を込めた。

 

 まだいろんな人の視線がある。気を引き締めなければ。そう思うのに敦賀さんとのやり取りを思い出して瞬間的に首筋に熱がこもった。

 

 

 

『キョーコちゃん。お手数だけど今日、俺の家に来てくれる?君にお願いしたいことがあるから』

 

 

 私にお願いしたいこと。

 そんなのもう嬉しすぎて、二つ返事でハイと了承したけれど。

 

 会話こそ知らないはずだけど、たぶんモー子さんはそのやり取りをどこからか見ていたに違いない。それで確認してきたのだろう。

 

 

 別に、モー子さんは敦賀さんとのことを知っているわけだから隠す必要はないのだけれど。

 

 正直こういうとき、何と言えば正解なのか私は大いに悩んでしまう。

 

 

 たとえば、友達以上の間柄の人を親友と呼ぶのなら、恋人未満の関係である私と敦賀さんのそれは一体何と呼べばいいのだろう。

 

 例えば仕事終わりのプライベート時間を共有するにあたって、恋人同士ならデート・・・と称することが世間一般の認識だろうけれども、では私と敦賀さんの場合はどう呼べばいいのだろう。

 

 それで言葉が詰まってしまって、言い淀んでしまう私は過分に修行が足りていないのだ。

 それが情けなくて恥ずかしい。

 そんなことを思ったところでどうしようもないけれども。

 

 

「キョーコちゃん、もう平気?出られるかな?」

 

「あっ、はい、大丈夫です!お待たせしました」

 

「そう。それじゃ行こうか。社さんが車を回してきてくれるから」

 

「はい」

 

 

 想いは通じ合っているのに付き合っていない私たち。

 ただでさえ恋愛ごとに縁がない私からしてみたら

 

 敦賀さんに対してどこまでなら許されるのか、何までなら許容されるのか。その境目が全く分からなくて困ることがしばしばあった。

 

 

 

「おじゃまします」

 

「はい、どうぞ」

 

 マネージャーの社さんに送ってもらって、敦賀さんのマンションにやってきた。

 足を踏み入れるのは久しぶりで、懐かしく思えてしまうのが不思議だ。

 

 

「こっちに来てもらえる?」

 

「はい」

 

 敦賀さんに導かれたのはキッチンだった。

 冷蔵庫の前で立ち止まった敦賀さんが扉を開けて溜息を吐く。

 

 

「もうすぐ渡米しなくちゃならないだろ。それなのに庫内の整理が全くつかなくて。食べられるのに捨ててしまうのも憚られるし、かといって自分で作れるほど器用でもないし」

 

「ははぁ、なるほど」

 

 納得しながら私は庫内を覗き見た。

 少し前にエッグベネディクトを作ったことを思い出す。

 

 あの時、作り方をひと通り教えて早々に退散しようとした私は、結局、敦賀さんに乞われてご相伴に与った。

 

 そして後日。残ってしまった食材はどうすればいいだろう・・・と、右手で頭を抱えた敦賀さんの呟きにハッと我に返って、その日のうちに温め直して食べられるメニューをひと通り用意したりした。

 

 一切の食材を無駄にしないように。

 だって残しておいても絶対に敦賀さん、自分で料理しないだろうと思ったから。

 

 そもそもエッグベネディクトを作った日、この冷蔵庫の中に食材なるものを見つけることは出来なかった。なのになぜいま庫内が適度に埋まっているのか。

 この事象については目を瞑るべきだろうか。それとも突っ込むべきだろうか。

 

 いやいや、やっぱりここはスルーで・・・。

 

 

「・・・ごめんね、キョーコちゃん」

 

「はう?」

 

「もうわかっちゃったよね。昨日、買い物したんだ。君を家に呼ぶ口実にしようと思って」

 

「っっっ!!」

 

 

 瞬間、顔に熱が集った。

 

 なんで、なんでこのタイミングでそんなことを暴露するのか、この人は。

 せっかく突っ込むのはやめようと決めたところだったというのに!!!

 

 

「ごめんね?」

 

 

 とか言いながら、敦賀さんは清々しいほど輝かしい笑みを浮かべた。

 絶対、悪いなんて思っていない、そんな顔。

 そもそもその笑顔での謝罪は一体どういう意味なのか。

 

 

 そしてしつこいほど本当に。こういう時どうしたらいいのか分からない。

 

 

 好きで

 大好きで

 確かに敦賀さんとは想いが通じ合ったのだけれど

 

 でも私たちの間柄はただそれだけだ。

 付き合っているわけじゃない。

 

 

 だからこそ、自分がこの人に対してどこまでの踏み込みなら許されるのか、その境界線が自分では判断できない。

 

 逆に、敦賀さんが私にお願いしてくることは何でも聞いてあげたくなるぐらいには私に否やはないのだけれど。

 

 

「怒った?」

 

「別に、怒ってないですよ」

 

「本当に?」

 

「本当に」

 

「良かった。急に真っ赤な顔になって押し黙っちゃったから」

 

「そんなことより、出発までに何食召し上がれる予定ですか?」

 

「ん?んーと、そうだな。朝食は必ず食べると思うけど」

 

「はぁ?だったらもうちょっと量をセーブして買い込みして来てくださいよ!どうするんですか、このお肉?!この魚?!なんでこんなのまで買い込んできたんですか!?」

 

「それは、君が常日頃からバランスのとれた食事は大事だと口を酸っぱくして言い続けたから。タンパク質も野菜も必要だっていつも俺に言うだろう」

 

「なっ・・・だからってこんな・・・明らかに出発までに食べきれなさそうな量じゃないですか!!」

 

「だね。だからこそ協力して?君も一緒に食べてくれるだろう?少なくとも明日の朝食分までは」

 

「・・・っ!!」

 

 

 なにそれ。

 どんなおねだりですか。

 

 私たち、別に付き合っているわけじゃないでしょう?それなのに。

 

 こんな風に私を自宅に呼び込んで、私に一泊していけと?

 夜食どころか朝食まで?

 

 

 私に向かって満足そうににっこりとほほ笑んだ敦賀さんから視線を外して、私は眉間にしわを寄せた。

 

 このまま見つめ合ったら、顔面がだらしなく緩んでしまいそう。

 

 

 

 ――――――――― カインとセツカだったあの頃

 

 この人の傍らにいられることはとても嬉しかったけれど、同時にとても苦しかったこともある。

 

 

 それと比べたら今はとても気が楽だ。

 もちろん、周囲への警戒を怠ることはダメだけど

 少なくとも今は自分の気持ちを押し殺す必要はないのだ。

 

 この人と二人きりの時に限っては。

 

 あなたを好きだと叫ぶこの想いを、押し隠す必要がないのが嬉しい。

 

 

「・・・・ふ。仕方ないですね。それはつまり、明日の朝食までに二人で食べきれなかった残りは全て敦賀さんが食べきる宣言である・・と受け取ってよろしいでしょうか?」

 

「・・っっ!!!」

 

 

 挑戦的に口角を吊り上げ、小首を傾げた私を前に敦賀さんが息を飲んだのがわかった。

 自分がどれほど愚かな真似をしたのか、ようやく思い至ったようだ。

 

 そう、思い出していただけました?あなたは自他ともに認める小食ですよね。

 

 

「・・・そういう顔、二人の時にしたら駄目だろう」

 

「え?」

 

 

 そういう顔ってどういう顔?

 あ、私いま悪徳調理師みたいな顔、していました?

 毒を何服も盛りそうな?

 

 いえ、でもそれ自業自得でしょう?

 この材料を揃えたのは敦賀さんですからね?

 当然、私は食べきっていただくつもりでいますから。

 だいたい、食べ物を粗末にしたら勿体ないお化けが出ますからね?!

 

 

「いや、待て!俺以外の男に見せるのはもっと問題じゃないか。だったらやっぱり俺の前でだけ・・・。いやでも、そんな無防備な笑顔を向けられたらどこまで欲求を抑えることが出来るか・・・」

 

 

 はあ?何をブツブツ言っているんですか。

 それより、冷蔵庫の前で打ちひしがれるのやめてもらってもいいですか。

 

 無謀にもあなたが買ってきたこの食材を、今夜中に全て処理しなきゃならないんですから。

 

 

「敦賀さん!取り敢えず普段の1.5倍は食べていただきますから覚悟してくださいね!」

 

「・・・それって俺だけじゃないよな?」

 

「もちろんお供しますとも。前に言ったでしょう。側にいる者同士で励まし合わないと生き残れないんですよ!」

 

 

 キラリ・・と瞳を光らせた私を見てクスリと笑った敦賀さんは、そのあと何を思ったのか右手で私の頬をくすぐりながら額にチュ、と口づけた。

 

 

「ふにゃぁぁぁっっっ!!!!」

 

「ありがとう。君の励ましなら百人力だね」

 

 

 いやあああ。やめて、なんなの!!腰が砕けて料理できなくなるじゃないの。

 二人の時に夜の帝王を発動するのはやめてください!!

 

 

 

 

 

     E N D


ちょっと遅い話ですけど、実は7月20日発売の原作を読む機会がありまして、そしたらキョーコちゃんもモー子さんも既にアメリカに渡っているじゃありませんか。

それで「ええ~?もうアメリカなのぉぉ???」と、正直悶々としちゃったんですよね。間、端折りすぎでしょ(笑)、とww

ちなみに蓮くんはその後、キョーコちゃんを「キョーコちゃん」とお呼びしているのですかね。( *´艸`)ふふふ

 

まあ、私の悶々事情など原作者様から言わせたらそれこそ余計なお世話だと思いますが。やっぱり一ファンとしては少しでも、すこーしでも蓮キョのいちゃいちゃが見たいじゃないですかっ。何のための両想いになったのよ・・・。ってことでお届けさせていただきました。お粗末様でございました。チーン

 

 

⇒隠さなくていい恋心・拍手

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