世直しドクター オレオレ詐欺編 第11話 | 色即是空。虚構による化身でしかないのなら、せめて今を楽しくEnjoy your life

色即是空。虚構による化身でしかないのなら、せめて今を楽しくEnjoy your life

たとえ明日が見えて来なくても歩いて行きます。どこまでも。

一発一発がこたえる。

 

清二のパンチが俺の腹に3発ワンツースリーしたかと思うと

 

顔に向けさらにワンツースリー。

 

最初の頃はなんともなかったが、

 

今になって一発一発の重みが体へ直に伝わってきて

 

表面を殴られるというより1発1発殴られる度、

 

痛みがズキンと身体の奥の方までしみわたるようになってきていた。

 

もう小一時間ほどパンチを清二から受けただろうか。

 

口の中は至るところが切れて血だらけになっていて

 

腹を殴られる度、おそらく肋骨が折れているのだろう・・・

 

ズキンとする電流が走ったような痛みが生じ

 

胃からくる血の塊が逆流して血ヘドとなって口からだらだら流れていた。

 

バシャッ。

 

俺が気を失いそうになると水をかけられ

 

すぐさま正気に戻された。

 

果てしなく拷問は続く。

 

映画ロッキーのように両目はボンボンに腫れ上がり

 

全体の視野の10パーセントほどしか見ることが出来なくなっている。

 

顔は見せられないほどに、むくんでいて

 

清二の拳が炸裂する度、

 

顔面の皮膚に拳が埋まっていくほどボンボンに腫れあがっている。

 

両方の鼻から鼻血がしたたり落ちて、息がしづらい状況になっている。

 

さすがに腕に自信のある俺の体も

 

これだけサンドバックにされ

 

数かぎりなく殴られれば

 

沈黙の悲鳴をあげずにはいられない。我慢にも限界がある。

 

まさに生き地獄。苦しい。

 

「どうだ。痛いか。ドクター。

 

患者の気持ちがよくわかるってもんだ。

 

ここに来たことを後悔するだろ。」

 

それみたことか。と言わんばかりに

 

何度も殴り続けている清二は俺を嘲笑うかのように言う。

 

言葉を言おうとするも口の中が血の海になっていて上手に言えない。

 

「こ…ろ…せ…」

 

「何?今、何か言ったか?」清二が顔を近づけてくる。

 

ペッ

 

清二の顔に向け残っている力を全て振り絞るように血の混じったつばを吐いてやる。

 

「この野郎。ふさけやがって。こんなになってもまだ意気がってやがる。

 

もう許さねえ。死ぬまで、とことん殴り続けてやるからな。」

 

そう言うと果てしなくパンチの嵐は続く。

 

終わる気配を微塵も感じさせない。

 

ふとそんな中、こんな瀕死の状態になっているにも拘わらず

 

おかしなことだが俺の頭の中には死んだ親父の言葉が思い出となり蘇ってきていた。

 

「いいか。鷹之。何かことが生じた時、いつもこうなった以上仕方ないと思え。」

 

これがうちの親父の言葉だった。

 

「仕方ない・・・

 

ただ大事なのはな。この後だ。たとえ大惨事にみまわれようとも

 

でもお前ならできる。諦めずやってみろと思うか、

 

このままやってても同じことだ。仕方ない。諦めろ・・・

 

どう思うかによって大きく道は分かれる。

 

それによってお前の生き方もこの先どう躍進するかにかかってくる。

 

すなわちお前の考え方一つなんだ。

 

いつまでたっても仕方ないという言葉で始まり

 

この後もどうせ何をやっても仕方ないで終わるような

 

進歩のない諦めの境地に達した後者になったらお前の生き方もそこまでなんだと思うしかない。

 

ではなく

 

たとえ限りなく限界に近づいたとしても希望を持ち続けること。

 

鷹之。人生ってものはな。1度しかないんだ。

 

こうだと決めたら何があろうとも突き進め。

 

仮にそれが死ぬ寸前になって瀕死の状態になろうともだ。

 

ロウソクの火ってもんはな。

 

無くなる寸前になると

 

一瞬だけだが全生命力を使い果たすように

 

パッと

 

大きさも明るさも倍増するんだ。

 

それは、はかなくもあり美しくもある。

 

お前もそんな風に生きてみろ。

 

それで早く死ぬようなことになったとしても仕方ない。

 

自分が出来る限界まで突進するんだ。

 

役にたったのなら、それが美徳となる。

 

それがお前に与えられた使命と考え

 

自分で決めたことは、とことん突き進んで

 

後悔のないよう大輪の花を咲かせてこい。

 

大丈夫だ。くじけそうな時は父さんがいつでもあの世から見守っておいてやるから。

 

人は躍進してこそ生きる価値がある。いいな。」

 

当時、死というものが親父の身に近づく中

 

病床にありながらも力強く俺へ向け力説していた親父の言葉が脳裏にちらつく。

 

親父にとってあれが最後のロウソクのようにパッと大きくなった瞬間だったかもしれない。

 

俺が今ここで諦めてしまってはいけない。

 

こいつらをなんとしても悪の道から引き戻してやらなくては。

 

「わかってるさ。親父・・・」

 

俺は心の中でそうつぶやく。

 

抱いていた一つの希望が今まさに一筋の光明となって

 

スポットライトを通して放射され

 

俺の体全体にエネルギーが行き渡るように射し込んでいた。

 

つづく

 

yjimage.j