それでも朝はやってきた。晴れ



主人はいろいろとわからないことの謎を解く鍵はリクルーターにあると考えた。リクルーターだったら、疑問に対して答えを出せるはずなのである。



早速、リクルーターに電話をし携帯、カリフォルニアの会社からの連絡について報告する。しかし、リクルーターはすぐにはつかまらない。主人の心が揺れる。あせるメラメラ



数時間後、リクルーターと連絡がつき、この会社は他には具体的に候補者がいないということがわかる。ニコニコこのリクルーターの会社との契約でこの会社は勝手に誰か他の人を雇うということは出来ないことになっているので、リクルーターの言う事は確かなのだ。

これによって、主人の気分は随分晴れた。アップ



リクルーターはこの状況がどうして起こったかというのを直接会社側に訊いてくれていた。

説明はというと...ちょっと信じがたい話だった。

最初の提示はCIO(Chief Information Officer -テクノロジー関係の部門の取締役)の許可を得たものではなく、主人が入ろうと交渉中の部門のボスと人事が合意したものだったという。そして、このボスと人事の2人ともがこの会社にとっては新人であり、CIOはこの提示を気に入らなかったというのだ。そしてCIOがからんで、この異例の取り消し、CIOが承認した新たな提示になったということだった。でもこれは本当に異例でこんなことは今までにリクルーターも聞いたこともないし、勿論自分で経験したこともないと言う。



「君はどうしたい?」とリクルーターが主人に尋ねた。



「少し考えて見ます。」というのが答えだった。


会社との交渉の中で主人も私も気持ちは上がったり下がったり。

ひどい日には朝と昼では全く状況が違うというどうなるのか予測のつかない状態。

またコネチカットではなく、カリフォルニアが浮上してきたわけだ。



それを私にどんどんと電話してくる主人。

まあ、頼られてるのかな。それとも心配してくれているのかな。とにかく自分の仕事といっても私を一緒にいれてくれていることは確かなんだなと思った。ある意味では私の意見を尊重しようという主人の態度は嬉しかった。



でも、正直言うと、大変もどかしいのも事実だ。

私にはまだまだ3択なのである。いつどうなるかわからない。どこでも良いのだが、それなりに準備をしていかねばならないわけだ。

もし引っ越したら?その時のための準備。カリフォルニアに関する知識を集めたり、コネチカットのことを調べたり。

そして、この街での友達や知り合いとの付き合いにも熱心にやっていかねばならなかった。私にとってはこの街にいるのも悪くないから、主人にとっては第3チョイスであっても、私にとっては今を生きている場所で第1チョイスなのだ。

気分は落ち着かないし、本当にいろいろな意味で忙しかった。

それに付け加えて、10月半ば以降11月には公立小学校の付属幼稚園の年に1度のOPEN HOUSE(一般の人のための説明会と校内ツアー)が続々と実施されるので、どうなるか全く不明な私はこの街にずっと住むのを想定して、公立小学校に足を運び、私立幼稚園の説明会やツアーなどにも参加した。もしかしたら、全く無駄になってしまうのを覚悟で。


主人の中でリクルーターからの説明を聞いて、いろいろな考えが交錯した。

この仕事のポジションはもともととても興味があったものだった。自分が今までやってきたこととは多少違うのだが、面接でもきちんと何を自分は経験してきて知っていて、何を知らないかと正直に話してそれでも良いと言ってくれたことに対してとても好感を覚えていた。また会社で受けた第1印象は本当に良かった。カリフォルニアに住むことに対する私達家族の憧れもあった。


しかし、主人はすぐにはYESと言えない引っかかる点がいくつかあった。

まずは会社側の態度。最初はすごく急いでいるようだったのに急にいろいろと変えて、かなり待たせられた。それに一時は主人がが引越しの条件を拒否したという事実に反することを理由に提示はないとまで言い切ったというのは大変頭にくる。こういうやりかたの会社を本当に自分は信用できるのだろうか?


この新しい提示、それにしても、前よりも低い。

給料も、そしてサイン・オンも。(サイン・オンというのは、入社する時の特別ボーナスのこと) 1つだけ、前回よりも良かったのが、来年のボーナスの最低額の保障。前の提示ではボーナスの最低保障額というのはなかったのだが、今回は景気や会社に関係なく、ある額はもらえるということになっていた。

そして、来年の初めに現在の会社でのボーナスをもらってからきてくれという。ということは実際にあちらの会社に行くまでにまだまだあと4-5ヶ月あると言う。それを良しと受け止めるか否か。

本気で自分に来て欲しいのであれば、どうしてこんな低いのを出してくるのだろう? 主人は会社側とこれから交渉に入ることにした。

会社の部門のボスと直接話をし、いろいろと正直に気持ちをぶつけてみて向こう側がどのくらい歩み寄ってくるかを見ることにした。

主人ははっきり、もしもCIOが前回の提示を取り下げてほしいと言ったなら、何故それを全て主人がかぶらなければいけないのかということを強く主張した。もし会社内部でのCIOとのコミュニケーションがうまくいっていなかったとしても、一度きちんと正式に提示したものを取り下げるというのは・・・・本当にあってはならないことなのではないかということを言った。

主人はもしここでサイン・オンなどの条件に歩み寄りが見られない場合、もうこの仕事は縁がなかったとあきらめようと思っていた。

というのは、現在の会社にMBAの授業料を出してもらっていたため、もしここで退社すれば、過去1年分の学費を会社に払わなくてはいけないのだ。だから、もしサイン・オンなどがない場合、それを払い戻すために最初から借金になってしまうからだ。

その次の日に電話での会話が予定されていたが、主人はあえてメールで自分の見解を会社の部門のボスに送った。電話で会話する前に主人は自分の譲れない線を示していたのだった。ここではもうゲームではない。今はもう長引いた交渉を終結させたいというのが本音だった。それでも、こちらが越えられない一線もある、と主人は言った。


明日は決戦が待っている・・・・。