『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記 -2ページ目

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

【前回のお話はこちら】☆人物紹介はこちらから→

 

 

ここはウルダハの女王陛下が治めるザナラーンのゴブレット・ビュートという名の冒険者居住区である。砂の都と呼ばれるウルダハはこの神々に愛されしエオルゼアの地で冒険者が行き来をする街として一位二位を争う都市国家であった。近年冒険者居住区に籍を置きたいと言う者も数多く、居住区は拡充しゴブレット・ビュートは都でも最も流行に乗っている冒険者居住区でもあった。その所以かここにはフリーカンパニーという冒険者団体が数多く点在している。この物語のヒーローである青年オーク・リサルベルテはこの地に足を踏み入れてあるフリーカンパニーの建物の前で考え倦ねていたが、呼吸を一つ付きその建物の扉をゆっくりと押し開く。そこは先日オークを肉体的にも精神的にも冒険者として制圧したローラという風変わりな男性冒険者のフリーカンパニーだったのである。中へ足を踏み入れると建物の広いエントランスは厳かで、ローラのフリーカンパニーが金銭的にも潤い規模が大きいカンパニーであることが一目でわかった。そこに人影がある。身長の高い男性で兎のような耳を生やしたヴィエラ族の、オークと歳の変わらなそうな風体の人物の後ろ姿が見える。その男性がゆっくりと振り向きオークの存在に気がついて彼がオークに口を開いた

「ようこそ我がフリーカンパニーへ。入会希望者かな」
「先日こちらのフリーカンパニーリーダーのローラさんにここへ来るように言われたのですが、御本人はご在宅でしょうか」
「…君もしかして、オーク君?」
「! なぜそれを?」
「生憎いまローラは席を外していてね、ローラからだいたいの話は聞いているよ。必ず君が訪ねてくるから“大事なことを伝えてほしい”とここの皆全員がローラに指示されてる」
「そうだったんですね」
「僕はカンパニー会員のパステル。立ち話もなんだからそこのソファへどうぞ」
「ありがとうございます」

オークは促されたソファに腰を落ち着けてヴィエラ族の、パステルと名乗った男性と話しているとそこにいるフリーカンパニーの会員がちらほらと行き来し彼らの後ろを横目にフリーカンパニーエントランスを素通りしていった。少しざわついているほうが気が楽だとオークはそのとき思ったのだった。口を開いたのはオークが先だった

「先程口にされていたローラさんの俺に“伝えておいてほしい”と言っていた内容は何でしょうか、パステルさん」
「うん、オーク君。内容は『巴術士(はじゅつし)のパステルの目にかなったら、パーティーを組んで戦闘に行こう』だった」

オークはパステル自身から伝えられたローラからの伝言に目を丸くする。ヴィエラ族のパステルは確かに腰に巴術士の魔導書を携えていた。今度はオークが先に口を開く

「そうですか…」
「ローラはそう言っていたけど僕はローラが言葉に意味を持たせていると思う。要約すると“君を必ず戦闘に連れて行く、だから一緒に行こう”かな。ローラは結局は君のことをフリーカンパニーに勧誘したいんだよ、多分カンパニーの誰が異議を唱えたとしても絶対ね」

パステルの言葉にオークは自嘲気味に苦笑した。自身にとって身に余りそうなローラの希望にオークはただただ曖昧に眉を下げることしか出来なかった。パステルはオークに話を続けた

「僕の目から見てもオーク君はうちのフリーカンパニーの会員と戦闘パーティーを組んで冒険に行けると思う。僕たち会員の意見は彼ローラにとって参考程度だ、前向きな彼の気持ちを知っておいてもらえると僕は嬉しいよ」
「はい、わかりました」

オークと同じ巴術士のパステルは最後にそう言って人好きのしそうな微笑でオークに笑いかけたのだった。オークはその仕草に好感を覚えてパステルの言葉に短く頷いたのだった。その後オークと短い会話を交わしてパステルは、次はローラにフリーカンパニーに留まるようにと伝えておくと告げた。またオークも丁寧に別れの挨拶を返して帰路に就いたのだった。フリーカンパニーからオークの存在が消える頃パステルはフリーカンパニー建物内の奥を振り返りそこに隠れていたこの話の当の本人であるローラに声をかけた

「あれで良かったの?ローラ。彼はまたここへ来るかな」
「ありがとうパステル。うん、必ず来るよ」
「さっき姿を現さなかったのは彼を断らせないためだったよね」
「オークは真面目だから真剣に悩んでる。でもきっと“彼女”がオークを説得するだろう」
「そっか」

ローラとパステルは言葉を交わして優しく微笑み合う。パステルも、ローラから先日交流を持ったこの物語のヒロインでありオークの密かな想い人であるクゥクゥ・マリアージュの事を少なからず耳にしていたのでローラとの短い会話で特に不思議がること無く“彼女”の存在にすぐ察しがついたのだった。


その夜、オーク達のクランBecome someone(ビカム・サムワン)のある森の都グリダニアは昼間は暑くもあり天気が良かったが夕方にかけて雨模様でとうとう雨が降り出した。傘を持たずにローラに会いに行くと出ていったオークは俄雨に濡れて戻ってくる。クゥは少し疲れたような顔をしていたオークを出迎えたときに少し胸のひっかかりを覚えていた。今夜は外が突然の雨で風が巻いている、ラベンダーの家に住み始めてから度々の雨で建付けの悪くなった雨戸が小さくない音を立てていた。クゥはそんな音のするグリダニアの真暗な外をベッドの上から少し不安げに見つめていた。すると雨戸の音にかき消されてしまいそうな弱々しいノックがクゥの部屋のドアからとんとんと聞こえた。と同時に頭に思い浮かべていたオークがドア越しからクゥに声をかけた

「クゥ、ごめん起きてる?」
「オーク?うん!どうぞ、入って」
「…ありがとう」

オークは小さく間を空けてクゥの自室のドアを開いた。オークはクゥの部屋に入った後、最初こそ目が合ったもののだんだん視線が下向きになった。クゥにはオークがなんだか自信なさげなようにも見てとれた。クゥの部屋は質素ながらも親近感がありクゥのお手製であろう民族刺繍が入った小物、編み物のひざ掛けやベットカバーが可愛らしく部屋を彩っていた。それらが被さった、先ほどから自身が座っているベッドの上にクゥはオークを促した。クゥの部屋にはソファを置ける余裕がなく必然的にオークはベッドに座ることになってしまう。このラベンダー・ベッドの家に鍵の付いた部屋がここしかなくここを最初に使ったクゥはなんだかこの部屋を気に入ってしまいそのまま使うことになった経緯があった。オークは若干躊躇いながらもクゥとは拳一つ分間隔を空けてベッドに腰を落ち着けた。いつも自分に優しく笑いかけてくれるオークが自分のほうを見ないことに違和感を覚えて彼に声をかけた

「オーク、どうしたの?今日ローラさんの所から戻ってきてから様子が変だよ、何かあったの?」
「この間ローラさんから冒険者の先輩としてアドバイスというかなんというか、そういうものを受けてね。しばらく自分を省みていたんだ」

ここまで短くない時間を一緒に過ごしてきたオークとクゥは冒険者同士の悩みを少なからず分かち合ってきたが、こういう少し思い詰めているふうなオークをクゥはもう何度も見てきていた。その度に微力ながらもクゥはオークの話に耳を傾けてきた。クゥはオークに片恋いをしていたが、たとえ叶わぬ恋だとしてもBecome someone(ビカム・サムワン)クランメンバーとしてリーダー、オークの次の言葉を待った

「俺は今まで君たちクランメンバーの力に多少なりとも甘えていたのかもしれない、ローラさんに俺の小さいプライドを粉々に打ち砕かれたよ」

クゥは眉を寄せてそんなことはないとすぐさま否定してやりたかったし彼に何か声をかけてやりたかったがそれをぐっと飲み込んだ。彼女はオークの苦悩を全てを吐き出させてやろうと思った。オークはクゥが貫く無言をこの先も話して良いと捉えてまた言葉を進めた

「俺がこれ以上強くなりたいと願うならローラさんの、自分のフリーカンパニーで俺を鍛えてくれるから自分のところへ来ていいと言われた。言われたんだけど…正直迷ってる」
「それは、どうして?」
「また傷つけられそうだなって。俺、これでも打たれ弱いところがあるから」
「それは、知ってる」
「だよな」

彼はやっとうつむいていた顔を少し上げて力なくクゥに笑った。オークのその心が弱った様子がクゥの胸を焦がした。本当に心の底から彼を抱きしめてやりたいと思う。クゥは自身の手を少し持ち上げたがオークを慰めるような、恋人のような資格はないと自分に言い聞かせて両の手を自分の腹で握り込んだ。オークの言葉はそこで途切れて二人の間に静かな沈黙が流れる。オークが本音を全てを吐き出せていないことも二人で培ってきた関係の時間の長さ分、クゥは今なら解ると思っていた。そう、以前のウルダハ王宮のパーティーの夜と同じことのように。冒険者としての同じ刻を過ごした日々でヒーラーとして彼の小さくない苦悩や葛藤を一番近くで見てきて以前とは違う想いと立場で、お互い変化してしまった名前のつかない曖昧な関係で、安い言葉で力にはなれないのかもしれないがクゥはオークに真摯に自分の偽りなき言葉を伝えた

「オーク、私達の為じゃなくて自分の為にローラさんのところへ行ってくるといいよ」
「クゥ…」

 


「オークはいつも人の事ばかり気にかけていつも自分を控えて謙虚に生きてた。でも私達クランメンバーはオークにもっと自分を活かしてもらいたいと思ってたよ。オクベルちゃんもいつも心配してた、だからそれがローラさんに伝わったんだと思う。私はこれはチャンスだなって感じるよ、フリーカンパニーのリーダーさんだもんきっと沢山勉強になることがあるはずだよ」
「…」
「行ってきてオーク、私…私達皆あなたの帰りを待ってるから。お願いします」
「…わかった、行ってくるよ俺」
「!」

オークはクゥの言葉に押され決意を固めたようだった。クゥがオークの最後の言葉に顔をぱっと明るくさせて彼に笑顔を見せるとオークは彼女の顔を無言でじっと見つめた。クゥはオークの様子にどきりとする。またオークから目が離せない、彼は僅かに唇を震わせてクゥにある事を小さく懇願した

「少しさ、…嫌じゃ無かったら肩を借りてもいいかな」
「…!いいよ!」

本当は彼女が自分の願いを断らない事も彼はもう随分前から知っている。クゥの自分への片恋いの想いを盾にしているのは嫌と言うほど思い知らされている、それでも彼はけして届く事がないクゥへの想いにどうしても今だけは縋りたかった。オークは自分の頭をクゥの肩口に寄せて甘える

「俺は君を…君たちを必ず守りたいんだ、勇気をくれてありがとう。ちゃんと戻ってくる、俺の帰りを待ってて」
「うん、わかった。気を付けて行ってきてね」

お互い本当の想いを今は封じて、それでも甘く甘く寄り添いあった。クゥは自分の頭もオークの頭に寄せて少し擦り付けるとオークもまたさらにクゥに頭を寄せた。二人の間にあった拳ひとつ分の距離は無くなった、グリダニアの風はいつの間にか音を立てるの止めていた。ただ静かに夜の虫の音が家の外で木霊していたのだった。


それからオークは森の都グリダニアのラベンダー・ベッドの家を出て砂の都ウルダハの、ローラのフリーカンパニーを訪れる。オークからの連絡は二ヶ月程ぷっつりと途絶えた。でもきっと元気に頑張っているはずだと、クゥは絶対に寂しくなると思っていた自分自身に苦笑しながらもそんなことは全く起こらずオークの帰りをひたすら笑顔で穏やかに待ち続けられていた。散々ローラにしごかれて連絡無しにやっと帰ってこられたオークは、クランのお抱え裁縫師のスレイダーに洋服の肩がもう全て入りませんねと笑われてテンションが上がり“ただいま”とクゥを思わず抱きしめてしまったのだった。これはオークとクゥが結婚する前、そして想いを伝え合うもっともっと前のお話。


この物語をエオルゼアの対等な友人に捧ぐ


(次回に続く)

 

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