『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

【前回のお話はこちら】☆人物紹介はこちらから→

 

エオルゼアの太陽の真下に広がるザナラーン地区のウルダハ王宮の、お膝元の城下町は今日も貿易や買い物をする町人たちの人影で特徴的な石畳が埋め尽くされていた。様々な人種が行き交う雑踏の中、束の間の休息で冒険者の衣服を脱ぎ捨て可愛らしい青色のワンピースと白いエプロンの普段着を纏い日用品を買い求めに訪れたこの物語のヒロイン、クゥクゥ・マリアージュはふいに聞き覚えのある名と女性の声に呼び止められる。高い声が雑踏に透き通る

「そこのおねーサンちょっとごめんね!こんにちは。お洒落帽子のオクベルを知らないかな、君はいつも彼女と一緒に街を歩いてるよね?僕、彼女と遊びたいんだ〜家に戻ってるかな」

 

 

そうクゥクゥに声をかけてきたのはラフな装いをした黒髪の人物だ。その者もどうやら冒険者のようだった。クゥクゥがその人物と日常的な挨拶を交わした


「こんにちは。オクベルちゃんとお約束ですか?どうだろう…今日戻ってくるとは聞いてるんですけど」
「じゃあ家で待たせてもらってもいいかな、たしかクランBecome someone(ビカム・サムワン)の詰め所も兼ねてるよね?そのオクベルちゃんの寝泊まりしてるところはさ」
「はい、それは構いませんけど」
「僕はローラっていうんだ。君は…」
「クゥクゥと言います」
「クゥクゥちゃんね、案内よろしく!じゃあ行こっか♪」

活気あふれるウルダハの広い街中で突如声をかけてきたクゥと変わらない年頃の快活なローラと名乗る女性は、クゥの隣を並んで歩きその後ろ姿はまるで仲の良い女の子同士に周りから見えるようだった。


件の魔道士オクーベルが所属すクランBecome someoneが拠点を置く森の都グリダニアの冒険者居住区にクゥクゥ達ふたりが辿り着いたときにローラはクランの詰め所である家の門前で突然立ち止まった。それはクゥが洋服のポケットから家の鍵を取り出したタイミングだった。クゥはそのローラの不自然な様子に気がついて彼女に声をかけた

「? どうかしましたか、ローラさん」
「…もしかしてこの家、いま君ひとりが帰ってきたカンジかな?」
「はいそうですね、今の時間は誰もいないと思います」
「ええっと…」

クゥから少し距離を取り目線を離して視線をあちこちに巡らすローラは庭先にある木製のミニガゼボを目に留めてゆびを指してこう言った

「あ!あそこに素敵なガゼボがあるねぇ今日はすごく良い天気だしあそこで待っててもいいかな♪」
「はい、もちろんです。わたしハーブティーを入れてきますね」
「あは♪悪いねぇ」

クゥは曖昧に笑うローラの様子に不思議がったが、彼女に微笑みかけて家の中に引っ込んだのだった。しばらくしてクゥは二人分のハーブティーを持ってそれをローラに手渡した。ローラがクゥにお礼を口にする

「突然押しかけたのにハーブティーまで用意してもらっちゃってありがとう、クゥクゥちゃん」
「いいえ、オクベルちゃんのお友達ですから。オクベルちゃんとはどのぐらい付き合いなんですかローラさん」
「そうだねぇ、オクベルとの出会いはもう一年近くになるかなぁ。僕がウルダハの街中でオクベルちゃんをナンパしてね、うちのフリーカンパニーに席を置いて貰ったんだ。クゥクゥちゃんもオクベルがフリーカンパニーに席を置いてるくらいのことは本人から聞いてるよね?僕これでもそのフリーカンパニーのカンパニーマスターなんだ」
「ふふ、そうだったんですね」

エオルゼアでは特段珍しくないが女性で一人称を僕と名乗るローラはフリーカンパニーという、冒険者が情報や武器防具金銭の一時貸付等を行えることのできる民間団体を立ち上げた人間だった。ローラはスムーズに自らのフリーカンパニー話をクゥに聞かせ続けていたと思うと少し空気を変えてクゥを真っ直ぐ見つめ、しっかりとした声で彼女に言葉を重ねた

「それから僕、みてくれは女の子なんだけど実は中身は男の子なんだ、解りにくいやつでごめんね。トランスジェンダーってやつで。あと男の子にも女の子にも恋する事ができる性格なんだ。まあ普通の男の人と接するようにしてくれると良いと思う。あ!誤解しないでね、僕は相手の同意がない限り体の距離は近づけないようにしてるから」
「そうなんですね、わかりましたローラさん」
「…あれ、クゥクゥちゃん君は僕のこと怖くないの?」
「え、何故です?言葉通りですよね」

クゥのその言葉にローラは目を丸くする。ローラはおずおずとクゥの言葉に頷いた

「うん、それはそうなんだけどクゥクゥちゃん…」
「それにさっきローラさん家に入るとき私が家に一人だって気がついて中に入る事を躊躇いましたよね、男の人だったからなんですね。なんだぁそういう理由だったんだ、すごく優しい人で良かった」

クゥは最後にそう言ってローラに満面の笑みを送った。するとローラは突然声を上げて笑い始めた

「あはは!クゥクゥちゃん最高だよ、さすがオクベルの友達だね。聞いてた通りだった、僕クゥクゥちゃんのことすっごく気に入っちゃった♪君ともっと仲良くなりたいな」
「私もローラさんといるとなんか癒やされます、仲良くしてくれると嬉しいです」
「これからよろしくね!そうだ、君だよね確か『クランリーダーが大好きすぎる女の子』。酔っ払ったオクベルから何度も聞かされたよ」
「オクベルちゃんたらローラさんにそんなことまで話してるんですか…!?も〜信じられない!」
「いいじゃない♪なかなかのイケメンだってぇ?付き合うのはもうすぐなのかな〜羨ましいなぁ」
「ちがっ…そんな感じじゃないんですけど、彼が私のことどう思ってるとかはぜんぜんわからなくて。嫌われては、ないと思うんですけど…」

だんだん語尾が小さくなり自信なさ気な様子になったクゥにローラはある提案をする

「そしたらその彼の気持ち、僕が確かめてあげようか?」
「え!?」
「とても楽しそうな声が聞こえるね、クゥ」

すると突然ガゼボよりちょっとだけ距離のある庭先から噂の“彼”がクゥとローラに声をかけた。この家の主でありクランリーダーの青年、オーク・リサルベルテだ

「商店街の坂道から笑い声が届いていたよ、クゥのお友達かい?初めまして、オークと言います」
「君が噂のリーダー君だ、オーク君だね!僕はローラ、初めまして♪」

ローラはオークから求められた挨拶を丁寧に返した。するとその彼らの挨拶の、僅かな合間にローラはクゥに耳打ちをした。任せてと一言だけローラは呟きオークとの距離を一歩近づけた。ローラはオークを足の爪先から顔までまじまじと見つめ、更にオークの横に立った。オークはそのローラの様子に不思議がることなく脇に立つことを許してしまう。するとローラは突然オークの腕をつつっと撫でてこう言った

「ふぅん、やっぱりオーク君は良い身体をしてるねぇ。僕、気に入っちゃった♪」
「え」

ローラは最後にそう呟くとオークの少し開いた両足に片足を少し踏み込んでオークの片方の手首を一瞬で捻り上げた。とてつもない殺気だ、オークに緊張が走る

(手首を掴まれただけなのに全身が動けない…!)

オークの顔が途端に強張り息が潜まる。喉をごくりと鳴らし、小さく息をするのがやっとだった。なんとかその絶望的な場から脱出しようとするも今にも手首が崩れ壊れ粉々になってしまいそうだった。しかしクゥにはオークのその手首の様子が全く見えない。ローラはオークの体の影に口元を隠し、クゥからはオークの体の様子を眺めるように見せてオークに素早く声をかけた

「あぁ〜んだめだめ、右でも左でもちょっとでも動いたら手首が折れるよ。どう?前にも後ろにも動けないでしょ、完全に制圧したからね。顎が動いても折れるよ、僕が女に見えて油断したね」
「…っ」

オークは呼吸のみしか許されず言葉も返せない。彼は視線だけでローラを後ろに感じた。ローラに触れられてやっとわかる凄まじい殺気ー、自らの殺気を他人に触れるまで身体の内に秘められる人物がローラだった。手首なのが奇跡に近い。これが首ならもう既に殺されていると、オークは頭の中が混乱に渦巻くなか悟ったのだった。ローラは続け様にオークにこう言う

「本当はこれからこうやってクゥクゥちゃんと遊ぶつもりだったんだけど気が変わった、君と遊びたいな。手首を離したら黙って僕とデートに行こう。嫌だよね?好きな女の子の前で手首をイかされるのはオーク君。逃げたら彼女と遊ぶからね」
「…」

ローラは最後にそうオークに忠告すると何事もなかったようにそっと手首を離してオークの片腕にふわっと抱きついた。“彼女”ではなく只者ではない彼はそのままクゥににっこり笑いかけて宣言した

「クゥクゥちゃん今日は本当にありがとう、おしゃべり出来て僕とっても楽しかった♪オーク君が想像以上に格好良かったから彼とこのまま遊びに行きたいな〜借りてもいいかな」
「それはオークがいいなら別に構いません…オーク?」
「ああ、ごめんクゥ。俺もローラさんとちょっと話してみたいかな、行きましょうかローラさん」
「良かった!それじゃあ行こうオーク君。クゥ、またね♪」

ローラはクゥに意味有りげにウインクを飛ばした。するとそこへ入れ違うように、一向に帰ってくるそぶりを見せなかった女冒険者の帽子のオクーベル・エドがローラとオークの姿を視界に入れて二度見した。オクーベルの姿を目に捉えたローラはすぐさまオクーベルに声をかけた

「オクベル~!君に会いたかったよ~なんで僕に会いにきてくれないのさー」
「ローラ?なんでここにいるんだまだ来ていいなんて言っていない、お前と会うと私は大変なんだぞ」
「つれないな~でも今日は予定が変わっちゃった♪オーク君が僕とデートしてくれるんだって。だから邪魔しないで♪」
「…? おいオークどうなってる」
「大丈夫、ちょっと話してくるだけだから。あとは頼むよ」

ローラとオークの不可解な行動に女冒険者オクーベルは一瞬片方の眉尻を上げてローラを尚も引き止めにかかった

「はあ?待て、ローラ!」
「じゃあねオクベル~♪」

「なんなんだあれは…。」

オクーベルの呆気にとられた後ろ姿に見つめられながら一見仲睦まじくオークと腕を絡めてローラはラベンダーベッドの家を後にしたのだった。


ラベンダーベッドの家とクゥが見えなくなる頃オークは自分の片腕に縋るローラに声をかけた

「そんなに体を寄せなくても大丈夫です、俺は貴方から逃げおおせられる気がしませんローラさん」
「一つ訂正しておくけど僕は男の子だからねオーク君」
「それもなんとなく解ります、ですから体を離してもらってもいいですか」
「いいだろう、そこの店に入ろうか。ハーブティーを奢ってよ」
「わかりました」

オークとローラが足を向ける先に冒険者が趣味で営んでいるであろう小洒落た喫茶店が現れた。ふたりは席に着くまで腕を組んだまま喫茶店のドアをくぐった。事の行く先の主導権を握られたまま、従うしかないオークは先に席に着いてそのままローラに早口に尋ねる

「申し訳ありません、俺は貴方に覚えがありませんローラさん。いくつか質問してもいいでしょうか」
「さすが冒険者だよオーク君、短い間なのに頭の整理が迅速で言葉も慎重だね。賢明冷静な判断だ」
「貴方は誰ですか、我がクランの誰に用件があるんでしょうか」
「街でクゥクゥちゃんを見つけてナンパしたら家に来ていいって言われて。君に負けず劣らず彼女すごく可愛いね、君が彼女に秘めた想いを寄せて大切にする気持ちが解るよ」
「…」

オークは一瞬言葉を詰まらせるも気づかぬふりをしてローラに質問を重ねた

「俺には貴方の本当の目的が皆目見当もつきません」
「僕の真意?それは言えないかなぁ。それよりもオーク君、彼女クゥの話をしようよ。単刀直入に言うけれど君、僕にクゥを譲ってくれない?彼女を僕の恋人にしたくなった、絶対に手に入れたい」
「…何か誤解があるみたいですがクゥは俺のクランの大切な仲間です、物のようには語れません。ですが想いを伝えるのは貴方の自由ですし彼女が承諾するならその事については俺は関わりのないことです」
「ほらまた君は油断してる。“絶対手に入れる”って言ったでしょ僕は有言実行型なんだ、まだ僕が女だと思ってるでしょう。その言葉は男の肉体を持った人間だったら面と向かって本当に言い切れるの?」
「…!」

オークはローラのその言葉に二の句が継げなかった。それはクゥがオークを想うのと同様にオークもクゥの事が愛しくて仕方なかったからだ。ローラの言う通りだ、ローラが女性の佇まいだから先の言葉を躊躇いなく言ってのける事が出来た。だがこれがもし男性の佇まいなら本当に心がざわめくだろう。オークの心が嫌だと喚き叫び倒しているに違いない。黙り込んだオークを確認したローラは話の切り口を変えた

「…とは言うものの、本当はオクベルに用件があったんだ。彼女から君の “オークの話” を聞かされているよ。彼女の話からは君が様々緊張感が欠けているように感じるね僕は。」

先刻一瞬で身体の自由を奪われたオークは何一つ反論出来ずただ黙ってローラの話に耳を傾けるしかできなかった。自分の数少ない手札で行動にも言葉にも隙のないローラから最大限の情報を引き出す為、オークも知恵をふり絞り話を切り出した

「ローラさん、俺の“何が”足りないんでしょうか?」
「聞き方も上手いな、全てをカバーしてるよオーク君。だけど実践的な闘い方が本当に成って無いね。これも先に伝えておくよ、君が君本来の力を充分に発揮出来ていないのは完全にストレスだ。君のクランメンバーが優秀すぎるせいで自分の個性を抑えるクセが染み付いてる、今日君自身に会って確信したよ。僕これでもフリーカンパニーの頭なんだ、その僕が断言しよう。オーク、君が今の君のままならクランの誰かがいずれ命を落とすよ」
「!」

それはオークには俄に受け入れがたい未来だった。迷うことなく言い捨てた自らのクランの最悪な行く末を、ローラからの真意が全く汲み取れないオーク。自分は男だと名乗り、人類には到底計り知れない恐ろしい力を宿した人物が何を狙っているのかいないのか、本当はオーク自分自身の命を狙っているのかいないのか。名高いリムサ・ロミンサのメルウィブ提督お墨付きのクランBecome someone(ビカム・サムワン)の秀才リーダー、オーク・リサルベルテの冒険者人生最大の危機がその身に今まさに降りかかろうとしていたのだった。これはオークとクゥクゥが結婚式を挙げる前の話であるー。

(次回に続く)

 

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