(STORY)
2010年8月12日。
荒れ果てた廃校のなかを、何かから追われるように若い男が走っている。それを追い詰めているのか、スーツ姿の刑事・藤本が階段を一歩一歩、踏みし めている。ある教室に身を潜めた若い男は、背後に血まみれの女子高生が忍び寄っていることに全く気付かない。一方、藤本は後輩の刑事・赤岩に呼び止められ ただけで、「ヒャハン!」と情けない声を出している。

外に数台の車が乗り付け、廃校にぞろぞろと入っていく一団。それはかつての佐藤学園であるこの廃校をお化け屋敷「Tower of Sugar」へと作り替えるためにやってきた、ホラープランナーのアツオとスタッフ、そしてお化け屋敷で働く予定の制服に身を包んだキャストたちだった。 スタッフからしばらく待機するように言い渡されたキャストの中に混ざっていた奈緒と峻は、暇つぶしのために、お化け屋敷へと改装中の校内を探偵し始める。 奈緒も峻も、なぜか校内の風景に懐かしさを感じている。

一人で校内を歩いて回っているアツオは、吸い寄せられるようにして入室した用務員室で古い写真立てを発見し、驚愕する。そこに写っていたのは、自 分にそっくりな顔をした白衣姿の男。その瞬間、謎の青い光がアツオの体を直撃し、アツオはしばし気を失ってしまう。

遅れて到着したのは、このプロジェクトを企画したフジヤマランドの社員であり責任者の滝島典子。連続殺人犯を追っていた掲示の藤本&赤岩と遭遇し たり、同僚の朝倉に邪魔されながらも、なんとか意識の戻ったアツオと対面を果たす。

しかし、アツオは首に違和感を覚え、視界には死体や血まみれの幽霊が入り込むようになり、25年前の今日、8月12日の光景のなかにいつしか入り 込んでしまう。実はこの日、日航機墜落事故が起こったその陰で、佐藤学園では理科教師の佐藤隆による大量殺人事件が発生していた。普段は温厚でまじめな彼 が、なぜ凶行に走ったのか?それは、隆の祖先にあたる佐藤陸軍大佐に殺された復讐を果たすために、悪魔に魂を売った西条勝の力に拠るものだった。西条は隆 の心を善と悪に分割し、悪の心を増幅させることで殺人鬼へと変貌させたのだ。

隆の善の心は青い光となって25年後のアツオに取り憑き、アツオの体を借りて西条と対決し、自分の心をひとつに戻そうと試みる。ところが、西条の 力によって、今度は隆の悪の心がアツオに乗り移り、その凶器の刃は典子や朝倉、赤岩、藤本たちに襲いかかる。

いつの間にか、奈緒と峻の眼前にも25年前の8月12日の光景が広がっていた。その日は、夏休みの補習の日。教師の並河から「あんたたち、早く帰 んなさいよ!」と声をかけられた二人は、暴走族からガラス扉を守るために木の板を打ち付ける用務員の誉田を見てその行為に得体の知れない危機感を募らせ る。それもそのはず、その板を打ち付けたことによって佐藤学園は出口をふさがれた状態になり、校内に残っていた教師や生徒は次々と佐藤隆に惨殺されること になるのだから。奈緒と峻は並河や誉田と一緒に逃げるにつれ、次第に何かを思い出していく。

奈緒と峻にいったい何が起きていたのか?
佐藤隆は西条との戦いに勝ち、自分の心をひとつに取り戻すことができるのか?
藤本と赤岩は連続殺人犯を捕まえる事ができるのか?
25年前に殺された人たちの魂は救済されるのか?

そして…、

この場所で、偶然に出会ったはずの12人が、繋がっていく。
そしてそれは、笑いと幸福感にあふれた意外な結末を迎えようとしていた……!
(以上公式ホームページより抜粋)

主人公のホラープランナー・アツオと25年前の大量殺人犯となってしまう理科教師・佐藤隆の一人二役を演じるのは加藤和樹。
共演は、松田悟志、賀来賢人、北条隆博、小西遼生、柳澤貴彦、植原卓也、佐藤二朗、キムラ緑子、佐藤めぐみ、佐津川愛美ら。

若手の実力派俳優たちと、ベテランで個性の強い俳優たちが、実に絶妙にキャスティングされている。

実は、作品については、加藤和樹が主演する、と言うこと以外、何の情報もなく鑑賞したのだが、非常に面白い作品に仕上がっていた。
ジャンルは、『アミューズメント・サスペンス・スリラー』となっているが、コメディと言っていいだろう。
とにかく、笑いにこだわりを見せる作品であるように感じた。
佐藤二朗が非常にいい味を出している。
他の俳優たちも、わざとらしい演技をするときは、これでもかというくらいにわざとらしく演じ、その他の場面では極めてナチュラルに演技をして見せ ており、メリハリが利いているし、時間軸が25年前と現在を行ったり来たりする一見複雑なストーリー展開を、非常に分かりやすい内容に仕上げてくれてい る。
演じ方で、25年前と現在を巧妙に織り交ぜ、その光景とストーリーを、話が壊されない程度に単純で分かりやすいものに仕立ててくれているのだ。

また、色の使い方も非常にうまく演出されている。
現代を描くには、あり得ないくらいカラフルに。
25年前を描くのは、モノトーンチックで、血の赤が強調される感じ。
この使い分けによって、同じ場所でありながら、25年前と現在が、非常にリアルで入り混じった構成になっていながらも、どっちの世界にいるのかが 観客に気付いてもらえるような仕掛けになっている。

どんどん笑いと摩訶不思議な世界観で、観客を映画の世界のなかに引きずり込んでいき、思いもかけないラストへと疾走していくストーリーテリング は、オリジナルが舞台作品ならではの巧妙さかもしれない。
妙に違和感を感じる内容に満ち溢れたストーリーが、ラストで納得させられるよう一つに凝縮していく展開は、非常に面白みがあり、なかなかに凝った 内容である。

見終わった後は、笑いとともに、清々しさと爽快感が得られる作品。、
チェッカーズの名曲「神様ヘルプ!」を、加藤和樹が歌い上げるエンディングもいい。
期待以上に面白く、見所にあふれる作品だと思う。
ラストを知った上で、もう一度観てみると、作品のなかに新たな発見ができそうな気もする。
できることなら、舞台の方も観てみたい、そう思える映画であった。