「トンウン………そうか......」
君がメヒか…

「アジョシ……、ヌグセヨ(誰ですか)?」

綺麗な瞳は澄んだ色をしていた

しかしその色が、深く暗く濁る事をこの時はまだ知らない





メヒは、アジョシ…では無く、先程、赤月隊のムン・チフと名乗ったこのひとを家へと案内するところだった


そもそも、自分は今日は
雨月庵にチンダルレを見に行く筈だった
幼馴染のギベクが迎えに来てくれて、
いざ行こうっとなった時、
ある女の子が通り掛かり、親しげにギベクに声を掛けた
ギベクは「ちょっといい…?」とメヒに断りを入れると、
女の子と少し離れたところで話し始めた
時折、口論する声が聞こえるが、
どんな話しをしているのかまでは聞こえない

ひとり置き去りにされたメヒは、
そばの木陰に佇みながら空を見上げた
いつの間にか雨は止んでいた

―良かった、止んで
此れならゆっくり見られるわ

暫くしてふたりは戻って来た
ギベクは浮かない顔をしたまま
「ごめん、メヒ
チンダルレは今度でいいか?」
ぱんっと顔の前で手を合わせバツが悪そうに顔を顰める
両の手から此方を伺い見る目が怯えたような、
嫌な余所余所しさが感じられ、そんな顔をされたらメヒは曖昧な顔で頷くしかない
隣では女の子が何処か誇らしげで嬉しそうに自分を見ている

―あぁ、成る程ね
私は噛ませ犬だったのか…

一歩下がって寄り添うように立つ女の子
彼女を気にしながらも謝るギベク
そんなふたりを目の当たりにし、
少しだけ抱いていた淡い恋心はつゆと消えた


ふたりと別れ、ひとりっきりとなり、
メヒは釣り場へとやって来た

心を落ち着かせたいなら釣りをするといい
水面を見つめ、それに身も心も委ねれば自ずと心も凪ぐであろうよ

叔父から勧められ、
釣りなど興味の欠片も無かったが、
今ではメヒにとって無くてはならないものだ
だが、釣りと言っておいて釣り竿ではなく
鞭を渡してきたのは如何と思うが

そんな事もあり、魚を捕っていたところにムン・チフが現れた

メヒにとって、大きくて威圧感もあるこのひとが
最初こそ驚きはしたものの、決して嫌では無い事に気付いた
ちらりとムンチフを見上げると、
真っ直ぐ前を見ていたその目がちらりと視線を向けてきた
その目が微かに微笑んでいる
こんなにも大きいひとなのに、大きな感じがしない
何処か穏やかで優しい雰囲気に、
全然似てないけど、お父さんと似てる、と思った

そんな事を考えながら、両手を口に当て
くすくすと小さく笑っていると道の向こうからひとがやってきた
何処も彼処も丸い恐ろしく太った小男だ
男はふたりの目の前にやって来ると、
ムンチフに向かって頭を下げた

「隊長!」
「どうした?」
「それが…」

男はほんの一瞬メヒを見る
そのただ事でない様子はメヒにも伝わる
メヒはムン・チフを見た
ムン・チフは眉を寄せ、
自分達が行く筈の道を黙って見ていた

 

 

 

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