禁欲期間が短い方が良い精子ができる | 両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

生殖医療専門医の立場から不妊治療、体外受精、腹腔鏡手術について説明します。また最新の生殖医療の話題や情報を、文献を元に提供します。銀座のレストランやハワイ情報も書いてます。

禁欲期間と精子の質について


精子の質が胚の質に直接つながるため、可能な限り良い精子を作る事が大切と言えます。

体外受精や顕微授精の場合、採卵の3~4日前から禁欲するように言われる施設もあるかと思います。

「禁欲期間が長い方がたくさん精子が出来て良さそうだ」、と思われている方も多いかと思います。

しかし実際にはどの程度の禁欲期間が精子にとって一番良いか、そのあたりの事は良く分かっていません。

(以前もこの「採卵前の禁欲期間 」に関しては記事にましたので良ければ参考にして下さい。)

今月号のFertility and Sterilityに、「禁欲期間が短い方が良い精子ができる」との報告がありましたので紹介します。


タイトル

短い禁欲期間により射出精子のDNA損傷率が低くなる


方法

この論文では精子のDNAの断片化が禁欲期間によりどう変化するかを検討しています。精子のDNAの断片化が多ければ精子の質は低下している事を意味しています。

96時間の禁欲、24時間の禁欲、3時間の禁欲において精子のDNAの断片化を調べています。


結果

実験1

96時間禁欲精子と24時間禁欲精子のDNA断片化を比較すると、96時間禁欲精子のDNA断片化率は26.9±11であったのに対し、24時間ごとに射精した精子のDNA断片化率は19.6±8.4となり、禁欲期間が短い方が25%もDNA断片化率が低下した事がわかりました。(P=0.31)


実験2

96時間禁欲した精子と、その3時間後に射精した精子のDNA断片化率を比較すると、3時間後の方が若干DNA断片化率が低下したものの有意差は認めませんでした。(P=0.60)

しかし密度勾配遠心で良好な精子を分離選別した場合、96時間禁欲精子のDNA断片化率(22.2±7.4)と比較して、3時間後の射精したほう(10.8±6.3)が約48%も断片化率が低下した事がわかりました。(P=0.003)


この結果から言える事として

この2つの結果から禁欲期間が短く、かつ密度勾配遠心分離法により分離した精子のほうがDNA断片化率が低い事がわかりました。

精子の一般的なパラメーターである「運動率、濃度、液量」と「精子の質」は分けて考える必要がありそうです。

濃度が濃くて元気に動いていても、肝心のDNAという質が悪ければ良い胚にはならないと言う事になります。

顕微授精には少量の質の良い精子があれば十分です。

長い禁欲期間は必要ないという事になりそうです。


Shorter abstinence decreases sperm deoxyribonucleic acid fragmentation in ejaculate.

Gosálvez J, González-Martínez M, López-Fernández C, Fernández JL, Sánchez-Martín P.

Fertil Steril. 2011 Nov;96(5):1083-6.