思っていたほど取れませんでした | 両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

生殖医療専門医の立場から不妊治療、体外受精、腹腔鏡手術について説明します。また最新の生殖医療の話題や情報を、文献を元に提供します。銀座のレストランやハワイ情報も書いてます。

先日採卵をしましたが予想した数が取れませんでした。担当医からは、「卵巣が深い位置のため危ないから採卵しませんでした」、との説明でしたが、今後も取れないかと不安です。

この様になる原因や今後の対策などあれば教えてください。

 

この様なご質問がありましたのでお答えします。

 

卵巣の位置が通常の位置にある場合、経膣で採卵を行うことはさほど難しくなく行えます。

多少深い位置の場合でもおなかを押すことで卵巣は下がってくるため問題なく採卵できます。

 

問題となるのは卵巣が癒着しており押しても下がってこないケースです。

無理に経膣で採卵すると子宮のかなりの長さを刺さないといけないため痛みがかなり強くなることになります。

 

この様になる原因ですが子宮内膜症、クラミジア感染により癒着していたり、過去にオペの既往があり、卵巣が子宮や腸に癒着している場合があります。

いろいろ工夫して動かそうとしても、動かなく苦戦します。

 

子宮が間にある場合、子宮を刺して採卵することは可能です。

刺す前に超音波をカラーモードにして、子宮内の血管の走行を把握して、血管のない場所を最短距離で刺していきます。筋腫を避けることも大切なポイントです。

針を一段階細くして、一度の穿刺で複数個採卵できるようにします。

痛みは強くなりますが、どうしても必要な場合には行います。

 

もう一つ方法があり、経腹(おなかの上から)で採卵をすることもあります。

採卵は普通は経膣からアプローチしますが、経膣で遠い場合、経腹にすると近くなりかなり容易になるケースもあります。コツがいりますが慣れれば問題なく行えます。

産科の検査の中で羊水穿刺というものがありますがそれに近い操作です。

経膣で子宮を刺すことと比べると、経腹の場合採卵後の痛みはかなり少なくなります。

 

一番問題なのは腸が間にある場合です。

子宮と違い腸は刺すことが不可能です。

刺すと腹膜炎などを起こすリスクが高くなりこれは絶対に行ってはいけないことです。

腸が入り込むことは肥満の方やおなかが張りやすい方に起こりやすいことです。

この対策として、ダイエットすることが大切ですが、その他としては下剤や浣腸などで腸を空にして、採卵をする事も効果的です。

腸を避けるため、おなかをかなり押して採卵するためこれらの刺激で採卵中に排卵することもあるため、排卵しにくい誘発方法で採卵に臨むこともポイントです。少し小さめの卵胞で採卵に切り替えたりもします。

 

また太い血管が間にある際にも卵巣の位置を動かせない場合には刺すことは避けるべきです。

万が一太い血管を刺すと大出血をおこします。

 

根本的な解決策として、オペをして卵巣の癒着を剥離する方法があります。

開腹歴が無いのであれば腹腔鏡手術で卵管、卵巣周囲の癒着剥離を行う事で解決できます。

過去に開腹歴がある場合には危険が伴うため基本的には腹腔鏡のオペは適応外なので、もう一度開腹オペをしなければいけなくなり、かなり負担が大きくなりますが、しっかりと癒着剥離をして卵巣の位置を正常の位置に戻し、その後採卵に臨むという方法が確実である場合もあります。
この辺りはとても難しいため、主治医の先生としっかりと話をして決める以外はないかと思います。

 

 

宜しければ過去の記事も参考にしていただけたらと思います。

 

採卵困難例