アイコスに関して | 両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

生殖医療専門医の立場から不妊治療、体外受精、腹腔鏡手術について説明します。また最新の生殖医療の話題や情報を、文献を元に提供します。銀座のレストランやハワイ情報も書いてます。

外来でアイコスに関して度々ご質問がありますので以前の記事を再度掲載します。
 

ヘビースモーカーだった夫が私の妊活のためにアイコスにしてくれました。感謝していますが、本音を言うとアイコスにできるのであればいっその事禁煙して欲しいと思います。ただ夫は私への副流煙は無いのであるからアイコスで十分と言い張ります。本当のところどうなのでしょう。またどうしたらアイコスをやめてもらえるでしょうか?

 

このようなご質問がありましたのでお答えします。

 

奥様のためにヘビースモーカーからアイコスに変えたという旦那様の努力は認めますが、アイコスが副流煙が無いというのは科学的な根拠が乏しく意見が分かれるところです(以下の呼吸器学会の見解を参照)。いずれにしても妊娠を希望している方や妊娠している方で有害物質を含む呼出煙を吸わされることを望む方はいません。

またご自身へのニコチンの摂取による害は全く改善されていません。ニコチン依存症はそのままです。

アイコスは禁煙と同等で体に悪く無いなどという誤解を持たれる方もいますがアイコスに変えることは禁煙とは全く異なります。

喫煙は問題外のため即刻禁煙すべきですが、アイコスも喫煙よりはマシという程度で、体には害でしかありません。

 

発売元のフィリップモリスジャパンから「アイコスは紙巻きたばこと比較して、90%の有害物質が削減されている」ことが出ていますが、自社で出しているこのデータ自体が正しいかどうか疑問ですが、もし正しいとしても10%の有害は依然として摂取していることになります。またこれらに関しては利益相反の無い第三者機関からの報告が絶対に必要です。現在は科学的根拠が無い情報が出回り危険な状態になりつつあります。

 

以下の日本呼吸器学会の見解にも書いてありますが、アイコス使用と病気や死亡リスクとの関連性についての科学的証拠が得られるまでには、かなりの時間を要します。現時点ではそれらは明らかでなく、推測にすぎません。 

 

アイコスに変えられるのであればあとはもう少しのはずです。

ご自身のためだけではなく、奥様のため、そして生まれてくるお子さんのためでもあります。

ご自身の健康な生活を送るにはアイコスも完全にやめる以外にはありません。

 

 

以下日本呼吸器学会からの見解を掲載します。

非燃焼・加熱式タバコや電子タバコに対する日本呼吸器学会の見解

 

日本呼吸器学会は、非燃焼・加熱式タバコや電子タバコについて以下のように考えます。

 

 1.非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用は、健康に悪影響がもたらされる可能性がある。

 

 2.非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用者が呼出したエアロゾルは周囲に拡散するため、受動吸引による健康被害が生じる可能性がある。

従来の燃焼式タバコと同様に、すべて の飲食店やバーを含む公共の場所、公共交通機関での使用は認められない

 

非燃焼・加熱式タバコや電子タバコは、従来型のタバコ製品(燃焼式タバコ)とは異なる新 しいタバコ製品であり、葉タバコを加熱することによりニコチン含有エアロゾルを発生させて 吸引するタイプ(非燃焼・加熱式タバコ)、液体(ニコチンを含むもの、あるいは含まないもの) を加熱してエアロゾルを発生させて吸引するタイプ(電子タバコ)とがあります(表 1)。非燃焼・加熱式タバコやニコチン含有の電子タバコには、従来型の燃焼式タバコと同様に依存 性薬物であるニコチンが含まれています。これらの新型タバコは、「煙が出ない、あるいは煙 が見えにくいので禁煙のエリアでも吸える」、「受動喫煙の危険がない」、「従来の燃焼式た ばこより健康リスクが少ない」と誤認され、急速な広がりをみせています。そのため、日本呼 吸器学会は、新型タバコの国民の健康に対する影響や社会的影響について憂慮し、学会と しての見解を示します。

 

非燃焼・加熱式タバコや電子タバコは、燃焼式タバコをやめられない人、あるいはやめる 意志のない人にとっては健康被害の低減につながるとして、従来の燃焼式タバコ使用者は 代替品として電子タバコを使用することを推奨する考え方があります。しかし、これらの新型 タバコの使用と病気や死亡リスクとの関連性についての科学的証拠が得られるまでには、か なりの時間を要します。現時点では明らかでなく、推測にすぎません。非燃焼・加熱式タバコ の主流煙中に燃焼式タバコとほぼ同レベルのニコチンや揮発性化合物(アクロレイン、ホル ムアルデヒド)、約 3 倍のアセナフテン(多芳香環炭化水素物)等の有害物質が含まれてい ること、が報告されています 1)。一方、ニコチン入り電子タバコ使用者から検出されるニコチン 代謝物は、燃焼式タバコ使用者を基準(100%)とするとほぼ同等量(80 - 200%)が検出される が、タバコ特異的ニトロソアミンの尿中代謝物は燃焼式タバコ使用者の 1.5 - 4.2%、揮発性 有害物質の代謝物は 20 - 60%程度と少ない、とする報告があります 2)。しかし、体内に有害 物質が取り込まれているのは明らかですし、この量が健康被害の低減につながる曝露量な のか、科学的根拠はありません。また、加熱によりエアロゾルを発生させる仕組みは、ニコチ ン以外のリキッド成分を分解して複雑な混合物を発生させ、発癌性物質に変化することが指 摘されています 3)。葉タバコを加熱してエアロゾルを発生させるタイプの電子タバコでは、土 壌中から蓄積した放射線元素のポロニウムも、燃焼式タバコと同様に含有されています。

 

新型タバコは周囲の人々への受動喫煙の危険が指摘されています。「煙が出ない、あるいは煙が見えにくい」とされていますが、特殊なレーザー光を非燃焼・加熱式タバコ使用者の呼気に照射すると、大量のエアロゾルを呼出していることが明白になります。燃焼式タバコ 使用者の呼出煙(“見える煙”)と同様に、大量の“見えにくいエアロゾル”を呼出しています。 世界保健機構では、「電子タバコのエアロゾルにさらされると、健康に悪影響がもたらされる 可能性がある」と指摘しています 4)。

世界保健機構がレビューした複数の研究では、1)電子 タバコ使用者の呼出煙中のニッケルやクロムなどの重金属濃度は、燃焼式タバコの呼出煙 よりも高い、2)PM2.5、ニコチン、アセトアルデヒド、フォルムアルデヒドなどの濃度は燃焼式タ バコの呼出煙中より低いが、通常の大気中濃度の 14 - 40 倍(PM2.5)、10 - 115 倍(ニコチ ン)、2 - 8 倍(アセトアルデヒド)、20%高い(フォルムアルデヒド)、とされています。

燃焼式タバコの受動喫煙による健康リスクに対しては明確な科学的根拠がありますが、新型タバコの 受動喫煙による健康リスクについて科学的証拠を得るにはかなりの時間を要します。有意な健康リスクではないとの主張もありますが、根拠はありません。しかし、“見えにくいエアロゾ ル”中には通常の大気中濃度を上回る有害物質があるわけですから、「受動喫煙者の健康 を脅かす可能性があると考えることが合理的である」、と世界保健機構は述べています 4)。特に、呼吸器疾患を持つ患者さん、冠動脈疾患をもつ患者さん、などにとっては有害な影響が でることが懸念されます。また、何よりも、このような有害物質を含む呼出煙を吸わされることを望む方はいないでしょう。

新型タバコは、従来の燃焼式タバコに比べてタール(タバコ煙中の有害物質のうちの粒子成分)が削減されていますが、依存性物質であるニコチンやその他の有害物質を吸引する 製品です。従って、使用者にとっても、受動喫煙させられる人にとっても、非燃焼・加熱式タ バコや電子タバコの使用は推奨できません。

 

表 1.新型タバコの分類

1.電子タバコ E-cigarettes
a). 液体(リキッド)を加熱してエアロゾルを発生させて吸引するタイプ
b). 液体(リキッド)には、ニコチンを含むものと含まないもの、の2種類がある注)

ニコチンを含むもの:electronic nicotine delivery systems (ENDS) ニコチンを含まないもの:electronic non-nicotine delivery systems (ENNDS)

注)海外ではニコチン入りリキッドが販売されている(ENDS)。一方、日本では、医薬品医療機器法(旧 薬事法)による規制により、ニコチン入りリキッドは販売されていない。

2.非燃焼・加熱式タバコ Heat-not-burn tobacco
a). 葉タバコを直接加熱し、ニコチンを含むエアロゾル吸引するタイプ(商品名 iQOS, glo) b). 低温で霧化する有機溶剤からエアロゾルを発生させた後、タバコ粉末を通過させて、タバコ成分を吸引するタイプで、電子タバコに類似した仕組み(商品名 Ploom TECH)

 

文献

1. Auer R, et al. Heat-Not-Burn Tobacco Cigarettes: Smoke by Any Other Name. JAMA Intern Med. 177:1050-1052, 2017.

 

2. 欅田尚樹.電子タバコ蒸気に含まれる有害化学成分.厚生労働省委員会報告書

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-

Kouseikagakuka/0000066481.pdf

  1. Shahab L et al. Nicotine, Carcinogen, and Toxin Exposure in Long-Term E-Cigarette and

    Nicotine Replacement Therapy Users: A Cross-sectional Study. Ann Intern Med 166:390-

    400, 2017.

  2. 世界保健機構による報告書 http://www.jstc.or.jp/uploads/uploads/files/%20DTWHO.pdf

 

【本見解の作成委員にかかる利益相反について】

一般社団法人日本呼吸器学会は、COI(利益相反)委員会を設置し、内科系学会と ともに策定した COI(利益相反)に関する共通指針ならびに細則に基づき、COI 状態 を適正に管理している。( COI(利益相反)については、学会ホームページに指針・ 書式等を掲載している。)

以下に、「非燃焼・加熱式タバコや電子タバコに対する日本呼吸器学会の見解」作成 委員の COI 関連事項を示します。
1) 研究助成金等に関する受入状況

(企業・団体名)杏林製薬(株)、チェスト(株)、中外製薬(株)、日本ベーリンガーイン

ゲルハイム(株)
2) 講演料・原稿料等の受入状況

(企業・団体名)アストラゼネカ(株)、帝人在宅医療(株)、日本ベーリンガーインゲ

ルハイム(株)、ノバルティス(株)
3) 作成委員の個人的収入に関する受け入れ状況

本学会の定めた開示基準に該当するものはない。