父親由来で胚の異数性に影響を与える因子は何か? | 両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

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PGT-Aにより正常胚ができるかどうかは女性の年齢に大きく依存しています。ただ女性にのみ原因があるのではなく父親にも原因があると推測されています。特に父親の肥満、年齢、精液の異常は胚の異数性に関与していると予測されています。

この論文では父親の年齢、BMI、精液所見が異数性に影響するかを調べています。

SNP(single nucleotide polymorphism)マイクロアレイを用いてコピー数が判定できるだけでなく各染色体領域の由来親も同定できるとしています。ここがこの論文のポイントです。

今月号からの論文です。

以下結果を説明します。

1720の胚を調べたところ半数が異数性でした。そのうち74% が母親由来、8%が父親由来、8%が二人からの由来でした。

父親のBMIにより胚の異数性を調べたところ特に差はありませんでした。

 BMI 18–24.9 kg/m2 was 7.2% (referent); BMI 25–29.9 kg/m2 was 8.4% (odds ratio [OR], 1.12; 95% confidence interval [CI], 0.79–1.82); and BMI R30 kg/m2 was 9.1% (OR, 1.31; 95% CI, 0.83–2.08). 

 

精液の所見と胚の異数性を調べたところ精子の濃度や運動率や数で差は認められませんでした。

 

父親の年齢が50歳未満と50歳以上で胚の異数性を調べたところ有意差は認められませんでした。

 men aged <50 years and those aged ≧50 years (OR, 1.69; 95% CI, 0.96–2.98).

論文の結論

父親の年齢、父親の肥満、精液所見は胚の異数性には関係しませんでした。今回の検討はPGT-Aを用いて胚の異数性が父親由来かを調べている革新的な研究と言えます。今回の検討では特に明らかな相関は認められませんでしたが治療を受けるカップルとしては安心できる材料と言えるかと思います。ただまだこの分野は始まったばかりであり今後の更なる大規模な検討が求められており、父親のどの様な因子が胚の異数性に寄与するかを見つける必要があります。

 

この結果から言えること

今回の検討では父親の年齢やBMIと異数性は関係がないとされていますが、以前にもブログにしましたが関係があるという報告も多数あります。

論文でも述べられていますが今回は一つの施設からの報告であり、これが必ずしも正しいとは言えません。今後多数の施設でさらに数を増やして大規模な検討が必要と思われます。

Fertility and Sterility® Vol. 118, No. 2, August 2022

Relationship between paternal factors and embryonic aneuploidy of paternal origin