山口さん通信 | 【人】に【良】い事。 それが【食事】

山口さん通信



岩手県大船渡市の友人のお父さんの体験です。

友人の家は、ブックボーイという本屋をしています。

3月11日、大船渡湾を見下ろす高台にある自宅で地震にあいました。

17歳の時にチリ地震津波を経験していたので、すぐに足の不自由な叔母の住む港沿いの家に車で行きました。

叔母を乗せて、お店に向かい従業員に避難を指示して自宅に戻りました。
叔母を車から降ろして振り返ると、街がじわじわと盛り上がる海に飲み込まれていました。

電気も水道も止まり、携帯電話もつながらない。街は瓦礫に覆われて道もない。店を任せている娘夫婦が夜になって帰ってきたときは、涙を流して抱き合いました。

壊滅的な被害を受けた大槌町には書店とCDショップがありました。

従業員と連絡が取れず、会いに行こうにも道もガソリンもありませんでした。

人づてに無事が確認できましたが、声が聞けたのは1ヵ月以上たってからでした。


大槌町店も大船渡店も、大船渡駅前の貸しホールも失い、残ったのは借金と瓦礫の山で、廃業するしかないと考え始めていた頃、津波を免れたショッピングセンターサンリアの再開の知らせがきました。

正直悩みました。でもテナントに穴を空けたら迷惑をかけてしまうとサンリア店の再開を決意しました。

サンリア店以外の店舗の再開めどがたたない中で、従業員を待機させていては申し訳ない。会社都合の退職だとすぐに失業保険がおります。少しでも早く現金が手にできればと考えて、サンリア店の二人を残して従業員を解雇しました。苦渋の決断でした。

再開前、本は売れないだろうと思っていました。ところが震災の本が飛ぶように売れました。一人で何冊も買っていくのです。もちろん、小説やコミックも売れましたが、その比ではありませんでした。それから児童書もよく売れました。

これからのことを考えると、途方にくれることばかりです。

でも、お客さんが

再開してくれてありがとう。

と声をかけていくんです。

それも一人二人ではなく何人もです。

こんなありがたいことはないです。

本屋を続けて本当によかった。大船渡の人たちのためにもがんばっていかなきゃと思います。


友人は仙台で働いていましたが、今は大船渡に戻って毎日お店を手伝っています。

おかげさまで忙しく、ありがたいと言っていました。

4月7日の余震で全壊した家も直すことが決まり、少しずつ復興に向けてがんばっています。