(要旨)


・日銀がインフレ率2%を目指しているので、それに近づくはず


・少子高齢化による労働力不足でインフレに


・最大のイベントリスクは大地震


・国債暴落もイベントリスクとして考慮する必用あり


・資産運用は、インフレに強いポートフォリオを







(本文)


バブル崩壊後の日本経済は、長い間デフレ(物価の下落)状態にありました。そこで、「将来はインフレの時代になる」と言ってもなかなか信じてもらえないほど、人々の意識の中からインフレというものが薄れているようです。


BEI(機関投資家の予想する今後10年間のインフレ率を、物価連動国債の価格から逆算した値)は非常に低く、ほぼゼロ%程度で推移しています。これはチョッと極端かもしれませんが、投資家以外の多くの人々の予想も、これと似たようなものかも知れません。


しかし、筆者はインフレのリスクは大きいと考えています。そもそも筆者の予想するインフレ率自体、長期的にみれば相当高いものとなっています。加えて、資産運用に際してはイベントリスク(具体的には大地震と国債暴落)による影響の期待値を考える必用もあります。そこで、資産運用に際しては、インフレに強いポートフォリオを組むべきだと強く感じています。







まず、日銀がインフレ率2%を目指している事を侮ってはいけません。仮に今後10年間のインフレ率が2%以下で推移するとすれば、今後10年間は日銀のマイナス金利が持続する(プラス数次にわたり追加緩和がなされる)事になりますが、それでもインフレ率は2%以下で推移するでしょうか?そもそも市場参加者(および世の中の人々)は10年間にわたりマイナス金利が続くと予想しているのでしょうか?


「マネタリーベースを増やしてもマネーストックが増えない以上、マイナス金利は実体経済には影響を与える事ができない」と考える事も可能ですが、過去3年間に起きた事を考えれば、円安と株高が進み、景気が回復し、人手不足が深刻化し、物価が上昇する可能性も結構高いと思われます。現在でも、エネルギーを除く消費者物価指数は前年比1%程度の上昇を見せているわけですから、少なくとも中期的には1%よりも高いインフレ率を予想しておくべきでしょう。







人口予測は、大戦争などが起きないかぎり、ほぼ確実に当たります。たとえば仮に今後出生率が劇的に改善したとしても、20年間は現役世代の人口が減り続けることは確実です。一方で、引退した高齢者の数はそれほど減りませんから、現役世代の人口とそれ以外の人口の比率から考えて、慢性的な労働力不足の時代に向かっていく事になるでしょう。もちろん実際にどの程度の労働力不足になるかは景気次第ですが、今後よほどの長期低迷が続かない限り、10年以内には慢性的に労働力が不足する時代が来ると考えておくべきでしょう。


労働力が不足すると、「現役世代が介護に忙しくて物づくりに従事出来ない」といった事態に陥りますから、物が不足するはずです。物が不足すれば価格が上がるでしょう。不足分は輸入すればよい、という考え方もあり得ますが、そうなると今度は、輸入のためのドル買い需要が殺到してドル高になるので、輸入物価が上がり、輸入インフレになるでしょう。


労働力不足になれば、賃金が上がります。サービスの価格は人件費に大きく影響を受けるので、労働力不足で賃金が上昇するとサービスの価格も上昇するはずです。


バブル崩壊以降、長期低迷の時代には、労働力が基本的に余っていて失業が問題でした。したがって、労働力の需給から賃金が上がらず、それがデフレをもたらしていたわけです。しかし今後は反対に、人手不足時代が来るという事をしっかりと認識する必要があります。頭の切り替えが必要なのです。







ここまでは予測でしたが、予測は出来なくても可能性として考えておくべき事柄(イベントリスク)もあります。その最大のものは大地震です。30年以内に大地震が発生する確率は70%だと言う人もいるほどです。仮にそうだとすれば、10年以内に発生する確率は10%はあるでしょう。大地震によって東京名古屋大阪といった大都市が壊滅的な打撃を受ければ、猛烈な復興需要が発生するとともに工場が壊れて生産が激減するので、物価は最低2倍にはなるでしょう。つまり、保守的に見ても、大地震で物価が上がる期待値は10%(年率1%)はあるわけです。この部分は、経済予測をする際にはリスクシナリオとして言及するだけで、メインシナリオには考慮しませんが、資産運用をする場合には期待値が重要ですから、この分もインフレリスクとして考慮する必用があるのです。







大地震の次に考えるべきことは、国債が暴落してインフレになることです。国債相場が暴落するか否かは、経済予測の問題ではありません。市場参加者が暴落すると思えば暴落しますし、思わなければしないので、予測は不可能です。しかし、可能性がある以上、資産運用に際してはイベントリスクとして期待値を考えておく必用はあるのです。


では、国債が暴落すると、なぜインフレになるのでしょうか。考えられる経路が3つあります。第一は、国債が暴落するということは、政府が借金できなくなるわけですから、その分を日銀からの借り入れで賄う可能性があります。そうなると、世の中に資金が出回るのでインフレになるでしょう。悪くするとハイパーインフレ(物価が何十倍にもなる超インフレ)になる可能性もあります。


そこまで行かなくても、インフレは高い確率で起きるでしょう。日本国債が暴落するという事は、日本政府が破産すると人々が考える場合です。そうなれば、日本銀行券が無価値になる事を人々は恐れるでしょうから、「日本銀行券を持っているのが嫌だから何でも良いから物に換えたい」という需要が殺到してインフレになるからです。


また、国債を売った資金は銀行預金や株式投資に向かうはずがありません。政府が破産するのに日本銀行券(および日本銀行券の預かり証としての銀行預金)や日本企業の株式などを持ちたいと思う投資家はいないからです。そうなると、人々は現金をドルに換えようとするはずですから、巨額の円がドルなどの外貨に換えられるでしょう。そうなれば、ドルが高騰し、輸入物価が高騰し、国内物価も激しい輸入インフレになるはずです。







こうした事を考えると、現金や銀行預金などは「リスク資産」であることがわかります。株やドルは値下がりのリスクはありますが、インフレに強い資産なので、インフレが予想される時には現金や銀行預金などとどちらが安全かわからないほどです。「買うもリスク、買わぬもリスク」といったところでしょう。


少なくとも、資産運用に際しては、資産を全額銀行預金に置いておく事は避けたいですね。ドルや外貨にも分散投資をして、インフレに強いポートフォリオを組むことが求められる時代なのだと言えるでしょう。

































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