バレンタインデー。

年々、LMEには沢山のファンからのチョコレートが届く。

そして、チョコレートが届く数が多いのは、もちろん、看板俳優である、敦賀蓮だ。

「バカみたい…。」

ラブミー部の依頼で、勿体無いから、それを社員に配っているキョーコは呟く。

「わかってたはずなのに、用意するなんて…。」

ここにはないが、部室に、蓮に用意したチョコレートがある。

それも『本命』の。

だが、今それを後悔していた。

作っている時は、受け取って貰えればいいと思っていたのだが、こうして社員に渡していると切ない気持ちになる。

食べてもらえないのなら、渡さないほうがいい。

「…後で、自分で食べよう…。」
「何を食べるの?」
「へ!?つ…敦賀さん!?」

後ろから急に声をかけられたキョーコは驚いて後ろを向くと蓮がいた。

「こ…こんばんわ。」

ぺこりとキョーコは頭をさげると、

「こんばんわ。最上さん、それは?」
「え?ああ…事務所に届いたチョコレートです。勿体無いから、チョコレートを恐らく貰えないだろうと言う、社員さんに渡してます。」

大変失礼な言い方だが、モテる社員に渡してもしょうがないので、必然的にこうなってしまう。

「恐らくって…。」
「あはは…後は、貰いたい人は持って帰る感じですね。」

現に奏江が、10個以上持って帰るらしい。

腐るなら、兄弟と甥と姪の腹に入れればいいと。

「そうなんだ…それで…最上さんは?」
「え?」
「誰かにチョコレート上げないの?」
「へ!?え、えっと!モー…琴南さんとかには、あげましたけど…。」
「そうなんだ…俺は?」
「え!?」
「俺のは無いの?」
「え、えっと…その…す、すいません…無いです…。」
「…そうか…。」
「はい…すみません…。」

嘘をつく。もしかしたら、食べて貰えるかもしれないのに…。

(でも、希望を持つのは止めたほうが良い…きっと、敦賀さんが本当に食べるのは本命の女の子だけだと思うし…。)

チクリと胸が痛むが、無視するしかない。

「あ…それじゃあ、私は別のほうに移動しようと思うので、これで…。」
「あ…うん。また…。」
「はい、また。」

ぺこりと頭を下げて、キョーコは彼から去る。

「俺のは無いのか…。」

後ろで肩が下がる蓮など知らずに…。