私のことがあからさまに嫌いだと言わんばかりの態度のお客様がいる


理由は何故か分かっている

常連の彼がレジに来て

「煙草」とだけ言うので

何て横柄な方なのだろうと

「銘柄は何ですか?」と私は言った


彼のその時の顔には言いたいことが書いてあるように良く分かった


「お前、いつも来ている俺の煙草も知らないのか?!」


知っていたような気もするけど

店員も、人間なんですよ


ここはスナックじゃ、ねぇんだよ

自分だけが特別だと思うな

一日、何人に煙草配ってると思ってんだ?


店員の見本なら

ここは謝るところなのかも知れない


だけど、店のマニュアルに

「お客様の好みを覚えましょう」なんてものはなかった


それは、つまり

店員の「気遣い」であって

必須では、ないのだ


自分の煙草を覚えていない店員がいたからと言って

その後一切避けるなら、もう来なければいいのに、と私は思う


店員が2人いれば

彼はいつも私を避け、別の店員の元へ行く


だけど今朝は、もう一人の店員は清掃中で

私しかいなかった


彼が煙草を手に入れるには、私に話し掛けるしかないのだ


私に声を掛けるのが余程嫌だったのだろう

銘柄を告げると彼は

ぽにょぽにょでヨレヨレな60近い容姿で

「何だよ、朝はひとりしかいねぇのかよ?」と

似合わない乱暴口調で威嚇的に言った


男って、ホント馬鹿みたい


歳取った男程、頑なに間違ったプライド高い

まるで、それしかないみたいに


そんなことで怖がる程

こっちも若くないっつーの


「いいえ、いますよ。今は清掃中でレジには私しかおりませんが」


にっこり笑顔で答える

向こうは金払ってますけど

こっちは頂いていますから


だけど心で何を感じようと

私の自由だ

その分までの金は貰ってない




接客は、「人」を見れる楽しい職業だと私は思う

街を歩いているだけでは分からない

会話をしなければならない職業だから尚更

人間力が試されて、お相手の人間力も良く分かる


お客様は神様だと言うように

勿論、出来ることなら要求の上をいくサービスを提供したい


親身になって、誠心誠意


だけど

時折、人として酷い方に当たることもある


店員を「人」とも思わぬ態度

「人」としての失礼な行為や言動


私達は仕事だと割り切り

へりくだり、謝り、意向に従おうと努力するが


胸の奥では、中指を立てている


だって、人間だもの







だけど

魅力的な人に出会えるのも

この仕事の素敵なところ


「有難う」と目を合わせて告げる人

「今日は暑いね」なんて、会話を楽しもうとする人

「お忙しいのに、すみません」なんて

こちらを気遣う人もいる


その笑顔に

その言葉に


また「やる気」を貰い

何とか続く

それがこの接客業




先日、いつも子分のような人を連れ添って偉そうに来店する男性が

ひとりで訪れた


恐らく仕事の部下なのだろう

彼はその部下にとても横柄で

その態度は決して共感出来るものではなかったが

ひとりで訪れた彼はとても元気がなかった

カップ麺をひとつ買い

「姉ちゃん、朝も夜も見るけど、良く働くなぁ。まだ帰らねぇのか?」

と聞いてきた

時刻はそろそろ21時というところ

「そろそろ帰りますよ」と笑えば

「そりゃ、御苦労さんだ」と言った


いつもの舎弟はどうしたんですか?と

聞きたい気持ちを押し殺し

「有難う御座います」と答えれば

彼は店内のポットからカップ麺に湯を入れ

テーブル席で食べ始めた


私もようやく仕事を終え

帰ろうとするところにまた彼と出くわした


なので

「今日もお疲れ様でした。明日も頑張ってくださいね」と言えば

「ああ。姉ちゃんもな」と彼は笑った


いつも部下に横柄で気遣うことなどないと思っていた彼でも

心弱く相手を気にしてしまう優しさがあったのだと思い

その経緯を鑑みて

少し、切なくなった


そんな時刻にカップ麺を食べなければならない

生活事情も踏まえて



世の中には色んな人がいるから


自分の価値観だけで判断してはならないのだと

この仕事は教えてくれる


また

表向きだけ見ていては分からない

人の気持ちも


会話して初めて分かる

その曖昧な胸のうちも



人間は、とても面白い



愛すべき存在だと思う



だから

明日もまた私は接客をする


この仕事が好きだ