今宵の月はblue moonと言うのですってね

ただ青い月のことかと思いきや

月に二度目の満月のことなのだとか


ええ

見上げれば

確かに、美しい



そんな名前の宝石があったか?

バラか!

そんな名前のカクテルがあることは知っている


男に言い寄られた粋な女が注文するもので

やんわりとお断りをする時の意思表示に使うのだと

私にカクテルを教えてくれた美しい人は言った


そういや彼女はあればかりを飲んでいた


私も大人になったなら

そんな恰好の良い女になりたいと

ずっと思っていたが


私がそういうつもりでオーダーしても

その意味を理解する粋な男などいなかった


質の良い女は、質の良い男を呼び寄せる


「まだまだね」


彼女のそんな声が聞こえた気が、した







「月」と言えば



私は月を見るのが

この上なく、好きだ



このブログにも、小説のブログにも

何気なく選んだブログデザインには

どちらも月が輝いている



以前、月にまつわる記事を書いたような記憶があるが

探しても見付からないので

もう一度書いてみよう





今宵の月は稀にみる美しさだ


月の出始めの頃からそう思っていたが

時刻が深くなるにつれ

より一層輝きを増し


私にはまるで

囚われのアメルダのように見えた


今宵のように、梅や桜の季節や

夜景の美しい宵には必ず散策を提案する男が私を呼び出した



案内されたのは寂れたラブホテルだったが

今はあまり見ない畳に布団が敷かれている和風な部屋で


その独特の背徳感や不衛生な趣と


日本酒のボトルを得意げに揺らす友人の笑顔は

何ともアンバランスで


私を笑わせた



「本当はお前に、女郎の恰好でもさせたいよ」

と言う男に

「私はあなたに着流しでも着せたいわ」

と答えた



ラブホテルには、これまた珍しい大きな窓を開け放てば

時代錯誤しそうなお月見を敢行することが出来た



私は昔から、月が好きだ


太陽は忙しなく私を追い込むが

月は優しく癒してくれる


これは私の昔からの生活習慣も大きく影響しているのだろうが



もうひとつ

私が月を好む理由に

あの童話「かぐや姫」がある



表向きは皆さんご存知の、美しく成長した姫が

月へ帰る話だが


思春期の頃

もうひとつの結末を聞いた




老夫婦に見付けられたかぐや姫だったが

おじいさんは年甲斐もなく、かぐや姫に恋をした


名だたる大名がこぞって姫を求めても

彼は誰にも姫を渡す気はなかった



また

「月からの迎えが来るのです」と怯える姫を案じて

財力の限りの兵力を集め、抵抗しようと試みた


それに気を悪くしたおばあさんの手引きで

月の使者達は難なく館に辿り着き、姫を連れ去った


姫が旅立つ前に差し出した不老不死の薬


おばあさんは喜んで飲んだが

おじいさんは「姫のいない世の中に何の楽しみがあるものか」と火にくべた


その後

おじいさんは亡くなり

おばあさんはいつまでも生き続けたが、孤独な日々を過ごした




そういう話、だ





誰も幸福ではないその話に


私は姫の行く末やおばあさんの悲しみよりも

恐らく最後の恋を全うしたであろうおじいさんのことを思った


そして

絵本などで良く見る

姫が月に昇るシーンで

泣くおばあさんとは対照的に姫の籠を追い掛けるおじいさんの挿絵などに涙したりした


どんなに大切なものでも

手放さなければならない時がある


親の愛よりも切ない、恋愛だったとしても


それが今になっても

切なく私を悩ませる




寂れた安いラブホテルで

高価な日本酒を呑みながら

そんな話をする私に

男は言った


「かぐや姫は多分、それも計算していた」


「じいさんが不老不死の薬を飲まずに、死ぬことを」


「つまり、お前と同じだ。形のないものを欲しがる」


「全く、嫌な女だな」


「だけど」


「姫の方もじいさんを愛していたとしたら・・・美談、だ」



だとしたら

姫も、月に戻ってすぐ

命を絶ったろう



益々、誰も幸せにならないお話




だけど

恋愛話としては美しい




「で。今宵の月は格別威力がありそうだけど、月の使者達は迎えに来たりしないよね?」


「来たら、追い掛けて泣いてくれる?おじいさんみたいに」



何の音もしない部屋では

まるで月の傾く音まで聞こえるようだ

彼が静寂を破るまでは


「いや。俺ならお前を人質に逃げ切るね。月に追われる逃避行だ」


「安心して眠れる夜はないね」


現実的な私の反応にも


「だから毎晩、抱いて寝る」


男は素敵な答えを返した





私は



あの、おじいさんのことを

ふと考える



切ないから物語

語り継がれる




俗物的な私達は、これでいい



彼にキスをしたいけれど



かぐや姫、あなたなら



どうするかしら?

















※これは多分一年程前に私が何気なく携帯のメモ機能に描いたものです。どこかにUPした気もするけれど・・・再度お目にしたならごめんなさい。こんな時、つまり今宵のように月の綺麗な時には、決まって電話をしてくる彼ですが、今夜は連絡がなかった。お仕事の都合か、それとも新しい姫を見付けたか。はたまた・・・私が月の姫などではないと気付いてしまったか・・・それは分からないけれど・・・※