時々彼の声を欲しがる耳の為に

今夜はOff the wallから聞いていこう




仲間内では一番モテるであろう紳士が

ふらりとやって来た


彼は半年に一度くらいのペースで私を口説きに来る


私は絶対に彼には落ちないと決めている



この心理戦を楽しむことを

もう10年近く続けている



別に

いつ寝たっていいのだ


そんなことに戸惑う程

子供じゃ、ない



彼の方だって

何が何でもという程若くはないし

困ってもいない



ただ

彼は腹が立つほど良くモテる

30代の頃は相当だと聞いたが

50を過ぎた今でも狙った獲物は外さない


若い売れないモデルと一緒にいたと思ったら

次にはセレブな人妻を腕に抱いている


まぁ、あっぱれな性欲

いや、違う

バイタリティと言うべきか


とにかく

女性がいないと生きていけない人なのだ



だけど決して下品ではなく

媚びたりもしない

女性を崇め、尊重して

その声と話術、容姿と人懐っこい性格で

あっという間に女性の心に入り込んでしまうのだ



初めて出会った時の衝撃は忘れられない

「可愛い人だね。今までもここに来てた?何で僕は君に気付かなかったんだろう?」


知るか。てなモンだ


だけど

言葉というものは恐ろしく

それを扱う人によって効力を変えるのだ


引き締まった筋肉

浅黒い肌

なのに子供のような瞳

いたずらっ子の微笑

指先の使い方

視線のやり方

そのさりげない触れ方


百戦錬磨だ


来た。と私は身構えた



彼の背景は最初から手に取るように理解出来た


乗るか、反るか


つまり

それに酔って身を任すのか

拒絶か


選ぶ権利は、いつも女性にあるから




面白いでしょ、第一こんな人

あんまりいないし


私は彼がいつも連れて歩くような美女とは違うけど

私だけ落ちなかったら

この人、どう思う?


適当に去って行くかな?

それとも挑戦するのかな?


小さな、好奇心だった



それが功を奏して10年近くも続いているという訳だ



まぁ、きっと彼にとっては

コンプリート出来なかったアイテムを取りに来るような感覚なのでしょうけれど



ここまで来たら絶対拒否でしょ、勿論

ここで落ちたら終わりでしょ?

私の「女」としての価値が量られている




「あのさ、最近あいつと仲良いんだって?彼とも食事に行ったって聞いたけど」


以前どこかに書いたが

私の男友達はそれぞれ繋がっていて

私が誰と会っていたなんてことが

何となく、バレている


「彼が好きなの。別に良いでしょ?」

「僕とは酒を飲む店にも行かないじゃない」

「それは酔って間違いを起こすのが嫌だから」

「間違いって、何?」


うっかり気が緩んで

寝たその朝に

私がどう思うのか、想像出来るから


彼のしたり顔も

見たくないし


「僕は酒の力を借りたりしないよ」


分かってるけど

酔ったらしたくなるのはこっちなの!!



「じゃあ。朝デートってのはどう?起き抜けの冴の顔、見たいなぁ」

「見せない」

「何で?」


惚れちゃうからだ

無防備な状態では

彼に太刀打ち出来ない



「相変わらず、つれないなぁ」


それでいいんだよ


「一体何年君を口説いてると思ってるの?僕の気持ちも汲んでよ」


分かってるんだよ

寝た途端

私は彼のコンプリートリストの中の一人になって

まるでキャラカードを集める子供のように

収まるケースに収まって

二度と登場の出番は、ない



「相変わらず、しつこい、あなた」

「しつこい、なんて女性に言われたの初めてだよ!」


そうでしょうね

なんせ瞬殺なんだから


私も毎回クラクラしとります



あなたに抱かれたいです

多分、楽しいでしょうね


だけど

それって

永劫続くものじゃないですよね?



なら

いらないのです











私は


私しかいらないと言ってくれる人が欲しいのです