『美味しかったあ!!美人だったあ!!』

地方から帰って来たConanが興奮気味に事務所に飛び込んできた

『調査結果を聞こう』

冷静なSethの声に我に戻ったのか眼鏡をくいっと上げた

『ご依頼された2人はともに名前を変えていました…』

窓の外にCarlosの車を見つけて眉をしかめる

なんてタイミングだ

『最初は小さな家庭料理の店に雇われて、やがて評判になり、引退した老人夫婦から引き継いで店を大きくしたようです』

『Chloeさんの方は翻訳の仕事と果樹園を経営をしていて、どちらも順調です』

『やあ!話は聞いてたよ!Conanくんご苦労様』

ん…?エスパーか盗聴器でもしかけているのか?

『是非そのレストランに行きたい。Conanくん同行してくれるね?』

ターンするな

『ボス、僕行きたいです』

食欲と美女に魂を売ったか

午後のレストランは女の子と男の子と30代と40代くらいの女性のバイト4人で回しているとConanくんからの報告

今日は雨だからChloeも店を手伝っていた

この人がMargotさんの初めて愛した人か

狼みたいだな

美しい女性と絵になる

男にはわからないが女性を惹き付けるフェロモンがあるのだろう

女性客のほとんどが熱い視線を送っている

『ラッキー!今日は×××がいるわ』

『あの瞳見て。ゾクゾクしちゃう!』

『追加注文しなきゃ』

英語がわからないふりでスペイン語で喋りかけた

Conanくんが通訳だ

美しいシェフにお礼を言った後に×××をテーブルに引き留める

数ヵ国を操る彼女には通訳は必要なかった

『………、…………』

『………』

『…………………』

『………?』

『……………。…………』

表情が変わった

彼女はちょっと待っていてくださいと言うと姿を消した

帰ってきた時には籠いっぱいの桃を抱えて

駆け落ちする前にMargotから貰った1本の苗木

桃源郷にかけて桃の苗木を選んだ

2人の希望として育てた樹がやがて花となり実をつけた

『お土産です』

桃をMargotに渡すとはっとしたようにフリーズした

涙が果実を濡らす

『ひとりにしてあげましょう』

『昔のような気持ちにならないかしら?』

恋とは不思議だ

こんなに強く美しい女性でさえ弱くさせる

財産を投げ売って小さな孤児院と手作りの学校を作り

kateおばさんも読み書きを習っている

そこでMargotと再会した

結局、DNA検査だけして会う事はなかった

Teddyが望まなかった

親子である事は証明されたが我が子に背負わせた運命

『あの子はもう両親には会えないの!?』

取り替えた子供への贖罪と悲しみ

夢の中をさ迷っている時にあの子が泣いて張ったお乳を飲んでくれて現実に戻れたの

例え会えなくても同じ空の下に生きている

それだけでいい

Sethが編集してくれた

Teddyに許可をもらった子供の頃からの動画とプリントした写真だけで十分だ

『優秀だと聞いて来ました』

突然現れた眉目秀麗な青年に事務所がざわつく

『こちらでは何でも探していただけるとお聞きしたのですが』

『はい。お望みとあれば全力を尽くします』

緊張で声が高くなった

『頼もしいな。探してもらいたいのは日本の同人誌で…』

そこからはよく覚えていない

まるでヴィオラ・アルタを探しているような口調でバリトンの美声が響きわたる

入手不可能なのはいっしょだが

彼が探していたのは現在は人気漫画家の素人時代に出したマニア向けの本だった…