「どうされましたか?」

 

 

 

受話器の向こうから女性警官の声が響く。

 

 

 

 

「ちょっと変な話なんですけど・・・・・」

 

 

ボクは、

 

状況をかいつまんで説明した。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

結論から言うと、

 

 

 

「警察では何もできません」って回答だった。

 

 

・・・・笑。

 

 

 

そりゃそーだ。

 

 

まずは、

 

パトカーで家まで送ってもらうってわけにはいかない。・・・警察はタクシーじゃない・笑。

 

 

「救急車をタクシー代わりに使う」

 

 

それと同じ迷惑行為だ・笑。

 

 

 

「インキー」

 

ドアロックを解除するってのもできない。・・・・こいつは、どちらかと言えば、警察ってより「ドロボー」の範疇だ。・・・警察とは「敵対勢力」の仕事だ。

 

 

「ロック解除」

 

 

そんな人員は警察にはいない・笑。

 

 

 

・・・・ってことで、

 

 

「何も解決しない」

 

 

 

・・・・・ってことで、

 

ここに(交番に)お巡りさんを向かわせることもできない。

 

 

そもそも、ここは、「無人交番」なんだとさ。

 

 

 

「警察では何もできない」

 

 

・・・・そりゃ、そーなんだけどさ。

 

 

どーにも気になったのは、

 

この女警官の「もの言い」だ。

 

 

たぶん、若いと思う。

 

 

警官特有の、どこか高圧的な声。・・・・少なくとも、笑顔で喋ってはいないって声だ。

 

 

まったく「優しさ」の欠片もない声。言い方だった。

 

 

 

そりゃ、

 

まぁ、

 

言い方優しくしたって、

 

結局、何もできないってことに変わりはないんだから、どーでもいい話なんだけどねぇ・・・

 

 

これで、

 

 

ボクが、

 

 

この寒い冬空、夜空に、

 

 

寒さに行き倒れになり、救急車でも呼ばれれば、「それ仕事!」ってことで、警察も駆け付けてくれるんだろうけど、

 

 

そうじゃなければ、「我関せず」

 

 

 

「めんどくせーことで、警察に電話してくんなよ」

 

 

そんな心の声がモロに出てる口調だった。

 

ちょいとイラつくくらいの語尾の強さだった。

 

 

 

 

・・・・まぁ、

 

間抜けに「インキ―」されたボクが悪いんだけどね。

 

 

 

 

「警察は何もできない」

 

「早く電話を切れ」

 

 

そんな女警官の心情が透けてみえる。

 

責任回避の台詞がマシンガンのように繰り出される。

 

 

あくまで、何もできない。何もしません。

 

 

 

 

「電車賃を貸してもらうことはできますか?」

 

 

 

おもむろに聞いた。

 

 

 

「え・・・・?・・・・ああ・・・・はい・・・・」

 

 

 

思わぬカウンターパンチを食らって、

 

女警官のマシンガントークが止まる。

 

 

 

 

・・・・むかし・・・

 

はるか昔。

 

 

まだ、小学生だった頃・・・・しかも3年生とかの低学年。

 

 

ボクたちは「スポーツ自転車」に夢中だった。

 

 

自転車に乗っては、山、河・・・・そして、車がビュンビュンと走る都会の街中を走り回っていた。

 

 

ある時。

 

 

友達の自転車がパンクした。

 

 

しゅぅぅぅぅ~~~~~~~~~・・・・・

 

 

すぐに友達の自転車、タイヤが萎んでいった・・・・・

 

 

友達が自転車を引いて歩く。

 

小学校3年生。5人。

みんなでトボトボ歩いていった・・・・

 

 

なんとか、「自転車屋」を見つけた。

 

 

 

・・・・しかし、

 

 

とうぜんに、

 

 

「修理にはお金がかかった」

 

 

 

小学3年生。

 

 

誰もお金を持ってなかった。

 

 

 

・・・・・その自転車屋の、4件隣が「交番」だった。

 

 

ボクたちは、

 

おそるおそる交番に入って行った。

 

 

「す・・・すいません・・・・・」

 

 

 

・・・・そして、事情を説明して、

 

 

 

「お金を貸してください!!!お願いします!!!」

 

 

 

5人で並んで、

学校の黄色い帽子の頭を下げた。

 

 

 

お巡りさんは、ボクたちを連れて自転車屋へと行ってくれた。

 

 

そして、

 

パンク修理代を払ってくれたんだった。

 

 

 

次の日。

 

 

ボクたちは、

 

また、みんなで交番に向かった。

 

 

そして、

 

みんなで、パンク修理代を返したんだった。

 

 

 

 

「電車賃を貸してもらえますか?」

 

 

 

「はぁ・・・・ええ・・・・大丈夫ですが・・・・」

 

 

 

女警官、言い淀む・・・・

 

 

・・・・が、

 

やっぱり、

 

警察には、こういうときのための「貸出費用」ってのがあるってことだった。

 

 

ただし、

 

そのためには、「有人」の交番に行ってもらう必要がある。

 

 

近くの「有人交番」を教えてもらう。

 

 

住所で言われてもわからない。

 

 

ここからの「道順」で説明してもらう。

 

 

スマホはない。

 

メモも、

 

書くものも何もない。

 

 

頭の中に地図を描いて叩き込む。

 

 

 

距離は、

 

 

ここから、3ブロックというところか、

 

 

歩いてどれだけかかるかはわからない。

 

 

それでも、行くしかない。

 

 

 

女警官に礼を言って、受話器を置こうとした・・・・

 

 

 

「あの・・・寒いから気をつけてくださいね・・・」

 

 

 

初めて女警官から優しい言葉を聞いた。

 

 

 

再び礼を言って受話器を置いた。

 

 

 

引き戸を開けて交番を出る。

 

 

微かな時間経過。

 

 

その分、気温は下がってる感じがする。・・・・・3度・・・2度か・・・・

 

 

下手すれば、

 

霧雨が霙に変わるかもしれない。

 

 

 

北風の中。

 

 

歩く。

 

 

 

トボトボ・・・・

 

 

テクテク・・・・

 

 

歩いて「有人」交番に向かった。

 

 

すぐに、

 

うっすいシャツは、霧雨と冷気を含んで体温を奪いにかかった。