東京。

 

下町の道路。

 

フィルダーを走らせていた。

 

 

眼の下にはクマが張り付いている。

 

 

ついに、

 

その「日付」の日がやってきた。・・・・今日が忌まわしき「日付」の日だ。

 

だからといって仕事を止めてしまうわけにもいかない。・・・・そんな、他人からすれば「アホか?」と言われるような理由で、家に引きこもっているわけにもいかない。

 

 

ボクは、今日もフィルダーで仕事をしていた。

 

 

 

・・・・そんなことが起こるはずはない。

 

 

そんな思いもある。

 

 

だって、おかしいだろ?

 

 

毎月毎月、同じ「日付」で交通事故が起こる。車に突っ込まれる。

 

 

んなことあるはずがない。

 

 

自分の身に起こっていることが、

 

 

「単なる偶然」

 

 

そう思っている・・・そう思いたい自分がいた。

 

 

何度だって言う。

 

だって、おかしいだろ???

 

 

 

・・・・そんなことが起こるのか・・・???

 

 

 

あってる当人すら信じられない。

 

未だ、「半信半疑」って世界だった。

 

 

 

小説。

 

漫画。

 

映画にすれば、

 

 

 

「んなことあるはずがない」

 

 

 

決して、

 

恥ずかしくて書けないような、

 

ベタなストーリーが、目の前で起こっていた。

 

 

 

だから、

 

あえて、

 

平気な顔をして、フィルダーに乗っているってこともあった。

 

 

 

しかし、

 

さすがに、

 

忌まわしき「日付」の今日。

 

1ヵ月間の、緊張のピークを迎えていた。

 

全く、眠れないほどに憔悴していた。

 

 

 

・・・・今日、事故が起これば、

 

それこそ、

 

いったい、

 

どうすればいい・・・???

 

二度と運転できなくなるんじゃないか・・・・

 

 

 

・・・いや、

 

そもそも、殺されてしまうんじゃないか・・・・

 

 

 

助手席に、

 

初めての「神頼み」

 

「御守り」の括りつけられたキーホルダーが鎮座していた。

 

 

 

雪中のインキー事件。

 

2度の追突事故。

 

 

全てが、同じ「日付」で起こった。

 

 

 

・・・・それと・・・

 

 

もうひとつ不可思議な事があった。

 

 

それは、

 

 

全てが「外車」だということだ。

 

 

・・・・それも、高級外車。

 

 

ロールスロイス。

 

 

イタリアンレッドの四輪駆動車。

 

 

 

ここは、東京だ。

 

 

高級外車には慣れている。

 

 

 

ボクが東京に出てきた頃、

 

 

「BMW」は、

 

 

「六本木カローラ」と揶揄されていた。

 

 

世界の高級車。

 

 

BMWも、六本木じゃあ、大衆車のカローラでしかないって意味だ。・・・・それほどに、大都会東京は外車で溢れている。

 

 

今じゃあ、

 

さらに進んでいる。

 

 

六本木、赤坂・・・・「港区」というエリアでは、ベンツ、BMWでなければ「車」じゃないってほどの地域だ。

 

そこに、アウディ、ポルシェ、・・・・世界の高級車が混じって走っている・・・・そんな日常風景だ。

 

 

国産の・・・・ましてや、ボクが乗っていた、小型車のアクアじゃ、全く肩身が狭い・・・・身の置き所がないってな道路だ。

 

 

・・・・・それでも、

 

 

ロールスロイス、ランボルギーニ、フェラーリってのは、そんなに見ることはない。

 

やっぱり、「珍しい」

 

 

「目を引く」って車だ。

 

 

 

・・・・そんな車たちに、突っ込まれた。

 

 

 

・・・・そんなことがあるのか・・・・?

 

 

 

だから、

 

 

道路を走っていても、

 

 

とにかく「外車」に注意していた。・・・・・特に「高級外車」

 

 

 

高級外車を見れば身構えた。

 

 

 

片道1車線の道路を行く。

 

 

狭い。

 

歩道も狭い。

 

朝夕の、登校、下校時間には、学生たちが歩道から車道へと飛び出してくる。

 

 

信号のない交差点も多い。

 

お年寄りの自転車が飛び出してくる。

 

 

だから、

 

車はゆっくりと、

細心の注意を払って、数珠繋ぎになって走っている。

 

 

それでも、

 

片道2車線の、年中の「渋滞」している幹線道路を走るよりも早く目的地に着く。

 

「抜け道」といった道路だった。

 

 

何度も走っている道だ。

 

 

「生活道路」といった道で、

 

地元のママさんや、お年寄りの小さな車が多い。

 

 

「大都会・東京」

 

 

とはいえ、

 

全てが「都会」ってわけじゃない。

 

一歩、幹線道路を外れれば、

 

「下町」と呼ばれる地域に入れば、

 

 

道は細くなり、歩道は狭くなり、

 

自転車、お年寄りが歩いている道もある。

 

 

 

4月。

 

春の陽射しもあって、

 

どこか「長閑」な空気が流れていた。

 

 

 

反対車線。

 

 

100m先。

 

 

その「生活道路」に似合わない車が現れた。・・・・明らかに、周りの空気から「浮いている」

 

 

 

「大型の外車」だった。

 

 

道幅いっぱいに走っている。

 

 

前後に車はいない。

 

 

 

アメリカの大統領が乗るような、押し出しの強い、イカつい「アメ車」だった。

 

映画なんかで、「FBI」だの「シークレットサービス」が乗っているような車。

 

もはや「SUV」なんぞといった言葉の車じゃない。

 

「軍用車」といった種類の車だった。

 

 

 

距離70m

 

 

 

「真黒」

 

違法なフルスモークでも貼られているのか、「黒い塊」だった。

 

 

狭い道路を道幅いっぱいに走っていた。

 

 

 

この道路では、「外車」を見ることすらが珍しかった。

 

 

ましてや、

 

「超」の付く、大型車。

 

 

 

滑らかな黒い塊。

 

 

 

・・・・・そうだ・・・

 

 

全ての条件が揃ってしまった。

 

 

 

「日付」

 

 

「高級外車」

 

 

 

・・・・そして、

 

見た瞬間にピンときた。

 

 

まるで「デジャブ」のようだった。

 

 

首都高速で、ロールスロイスが現れた時と同じだった。

 

 

 

50m

 

 

 

車全体から、

 

 

「負」のオーラが漂っていた。・・・・ボクに向けられた「悪意」ということか・・・・

 

 

何か、異様な「気」のようなものを発していた。

 

 

 

映画、「野生の証明」の中で、

 

主人公の薬師丸ひろ子が、

 

交差点に停まっているダンプを見て、

 

父親の高倉健に、

 

 

「・・・・あのダンプ・・・お父さんを殺すよ・・・」

 

 

そう言うシーンがある。

 

 

ダンプは異様な「気」を放っていた。

 

 

あのまんまだった。

 

 

 

距離30m

 

 

 

「あの、軍用車は、ボクを殺しに来た・・・・・」

 

 

 

瞬間思った。感じた。

 

身体全体に緊張が走る。

 

身動きできない。

 

眼だけで黒い塊を追った・・・

 

 

 

10m

 

 

 

しかし、反対車線だ。

 

 

 

「漆黒の塊」とすれ違う。

 

 

 

何事も起きない。

 

 

まさか、反対車線からいきなり突っ込んでくるわけはない。

 

 

 

・・・・考えすぎか・・・

 

 

ここまで、心身が病んできているのか・・・・

 

 

 

溜息をつく。

 

 

 

交差点。

 

 

信号。

 

 

ここは、幹線道路へと出る交差点だ。

 

いつだって信号待ちの長い列ができている。

 

 

 

ブレーキを踏む。

 

 

ボクは、長い列の最後尾で止まった。

 

 

ミラーに視線を走らせる。

 

 

横を、対向車が通過していく・・・・流れていく・・・・

 

 

 

ルームミラー。

 

 

後ろ。

 

 

 

・・・・・???!!!!

 

 

 

「漆黒の塊」が迫って来るのが見えた・・・・・

 

 

 

助手席。

 

鍵の束。

 

括りつけられた「御守り」