ガガガガガァーーーーーー!!!!

 

 

身体全体が衝撃に包まれる。

 

 

逆噴射の轟音。

 

 

 

「只今、当機は新千歳空港に到着いたしました・・・・」

 

 

機内にアナウンスが流れる。

 

 

シートベルトが外される音、音、音・・・

 

 

機内の喧騒。

 

 

 

空港ロビーを歩く。

 

 

時計は、まだ早朝だ。

 

1日が始まったばかりの朝の時間。

 

・・・・ましてや、平日。行き交う人も少ない。

 

 

 

ボクは、

 

朝一便の飛行機で北海道にやってきた。

 

 

 

空港を出れば黒塗りのレクサスが待っていた。

 

 

弾かれたように助手席から降りたスーツ姿。

 

後部ドアを開けた。

 

乗り込めば、運転席のスーツ姿が挨拶をしてくる。

 

 

後部座席に収まれば、レクサスが走り出す。

 

 

 

・・・・・目的地は札幌だ。

 

 

 

助手席の男が、振り向き、資料を手渡してきた。

 

 

ここから目的地まで1時間強。

 

車内は会議室となる。

 

 

 

 

「会社を上場させていただきたいのです」

 

 

成海がやってきて言った。

 

 

藪から棒の話だった。

 

 

想像もしていなかった台詞だった。

 

 

 

先輩の会社。

 

 

「上場」はカウントダウンに入っていた。

 

 

 

上場をするには、

 

いくつものハードルをクリアーしなければならなかった。

 

数年をかけて、そのステップを登ってきていた。

 

 

 

事業は「日本全国展開」へと拡大していた。

 

 

最初は、北関東に営業所を出し、

 

初の支店開設は「中部地方」・・・・名古屋に開設した。

 

 

それでテストケースは完了。

 

一気に、同時に、全国展開に打って出た。

 

日本をいくつかのブロックに分け・・・・北海道、東北・・・よく目にするブロック分け。

 

それぞれに、「支社」を開設していった。

 

 

 

レクサスが小さなビルの前に停車した。

 

 

ボクは、「営業所」開設のための下見として、北海道を訪れたんだった。

 

男たちは、不動産会社の人間だった。

 

 

今日1日で、10近くの物件を見て周ることになっている。

 

 

 

「まずは、各エリアに営業所を開設してほしいのです」

 

 

成海が言う。

 

 

 

そもそもが、

 

ウチの立ち位置は、

 

先輩の会社の「工事部門」の独立だ。別会社化だ。

 

 

本体の全国展開に伴って、歩みを同じくするのは当然ということになる。

 

 

・・・・まぁ、

 

理屈としては通っている。

 

 

 

全国展開のテストケース。

 

 

先輩の会社。

 

北関東の営業所は、すぐに機能した。

 

そして、

 

「中部地方」支社開設。

 

 

順調に、

 

静岡、名古屋の建築案件を受注した。

 

 

営業所を開設していないウチは、

 

東京からの「出張」という態で施工をこなしてきた。

 

 

北関東についても同じだった。

 

 

 

まぁ、

 

電車でも、車でも、

 

通える範囲だからな。

 

「出張」でも出来ないことはない。

 

 

 

そして、

 

案件は、成功を収めた。

 

「中部地方」でも独立採算でやっていけると確信がもてた。

 

北関東でも、当然に成功している。

 

 

あとは、

 

このビジネスモデルを拡大すればいいだけだ。

 

 

 

ウチの動き方としては、

 

自分たちの「出張」のみならず、

 

 

今後の事も考え、地元でも「協力会社」を求めていった。

 

 

 

時代は、

 

 

バブル後。

 

 

「失われた20年」の時代。

 

 

 

建設業「冬の時代」だ。

 

 

協力会社に不自由はしなかった。

 

 

建設会社、みんなが、仕事を求めていた時代だ。

 

 

 

・・・・いや、

 

 

もっと、切実だった。

 

 

中小建設業は、全ての会社が倒産の瀬戸際に立っていた。・・・・大手ゼネコンですら、業績は最悪の状況だった。

 

 

どの企業も「生き残り」をかけての壮絶なリストラを敢行していた。

 

 

コンペに勝つために、極限まで請負金額を下げていた。

 

そのシワ寄せは、下請けへと押し付けられる。・・・請負金額の、さらなる値下げ要求。

 

 

・・・・社員の給与カット、ボーナスカット。

 

末端の職人さんたちの賃金など、コンビニや、ガススタのバイトと変わらない金額になっていた。

 

 

・・・・新入社員。

 

若者の雇用などありはしなかった。

 

今いる人間たちの雇用で精一杯・・・その金額も低下の一途だった。

 

 

 

建設業だけじゃなかった。

 

・・・・・日本中がそういう状況だった。

 

 

 

現場労働者の失業。

 

 

「年越しテント村」が話題になった時代だ。

 

 

 

・・・・確かに、

 

逆に、

 

 

時代は追い風だった。

 

 

「失われた20年」

 

 

・・・・さらには、不景気のどん底に落ち込んだ建設業。

 

 

 

その中にあって、

 

ひと際、

 

 

先輩の建設会社は輝いていた。

 

 

 

「ベンチャーブーム」も相まって、

 

 

テレビ、雑誌で、もてはやされていた。

 

 

 

・・・・・さらに、「上場」が決定的となっていることが、全てに拍車をかけた。

 

 

この時代に、

 

仕事を確保できる「建設ベンチャー」は、

 

既存企業にとって垂涎の的、

 

救世主の存在だった。

 

 

地元建設業者たちは、飴に群がる蟻のように、首を垂れ、仕事を求めにやってきた。

 

 

その「窓口」となっていたのが、ボクの会社だった。

 

 

 

これまでのテストケース。

 

 

北関東。

 

 

中部地方。

 

 

それらは、

 

「出張」という形態で上手くこなしてきた。

 

 

 

しかし、

 

 

北海道。

 

 

東北。

 

 

九州・・・・

 

 

そうなってくると、今までのように「通い」というわけにはいかない。

 

 

その地に拠点を開設するのは当然だと言えた。

 

 

成海のいうことは、もっともだった。

 

 

 

・・・・しかし、

 

 

営業所を開設するとなれば、コストがかかる。

 

 

いち拠点を開設するのでも、

 

初期費用は膨大だ。

 

 

 

営業所開設。

 

 

事務所賃料。

 

駐車場賃料。

 

倉庫賃料・・・・

 

 

それに、細々とした水道光熱費・・・

 

 

 

・・・・さらには、雇う人間の人件費。

 

 

 

おそらく、

 

これまでの実績を考えれば、

 

ビジネスは上手くいく。

 

 

しかし、

 

 

営業所開設。

 

すぐに「黒字」になるはずはない。

 

 

初期費用の償却が重しになるはずだ。

 

 

軌道に乗って、黒字化するまでに、3年・・・・・なんとか、2年で、日本全国という視点で見て赤字を脱却できるか・・・・そんな時間レンジだろう。

 

 

 

・・・・その間のコスト負担はどうする?

 

 

運転資金。

 

キャッシュフローはどうする??

 

 

 

おそらく「数億」といった現金が必要になる。

 

 

 

 

「それは、本社で用意させてください」

 

 

 

成海が言った。

 

 

 

良い話に思えた。

 

 

 

・・・・が、

 

 

無表情の成海の顔。

 

 

 

爬虫類。

 

真っ赤な、蠢く細い舌が見えるようだった。

 

 

 

「親切心」

 

そんなものからの言葉じゃないのは明白だった。

 

 

 

・・・・こいつは、何を考えていやがる・・・???