機内。
アラーム音が鳴って、シートベルトサインが点灯した。
「当機は、間もなく着陸態勢にはいります・・・・」
ボクは、ノートPCをカバンにしまって、テーブルを元に戻した。
窓の外は快晴。
キラキラと輝く海が見えた。
日本全国への営業所開設。
その不動産巡り。
今日は、九州、福岡に向かっていた。
成海から伝えられたのは、
「親子上場」のプランだった。
先輩の会社。
上場は1年後と決まっている。
すでにカウントダウンが始まっていた。
その晴れ舞台を、
さらに、華々しく飾ろうというストーリーが、
「親子上場」だった。
先輩の会社の上場。
さらに、子会社である、ボクの会社の上場。
もちろん、
今から準備して、来年、同時に上場できるってわけじゃない。
先輩の会社の上場時に、
ウチが上場することを正式に発表する。
上場セレモニーに、さらに華を飾る。・・・・そういう話だった。
当然に、
「華を飾る」
そんな「情」の部分で成海が動いているわけじゃなかった。
成海は、投資ファンドの代表だ。
アメリカの投資会社の日本代表って立場だ。
成海にとってのミッションは、最大限の投資効率だ。
投資案件に対しての、最大のキャピタルゲインが目的だ。
非上場の会社に投資をし、
株式公開まで持ち込み、投資を何倍にしてリターンとするか。
最低限で10倍・・・・上手くいけば100倍超。
そういったビジネスが、成海のビジネスだ。
幸い、
先輩の会社は、上場までにこぎつけた。・・・・これは、至難の業の出来事だった。
投資会社とはいえ、
投資をし、
上場までに漕ぎ着けるのは、せいぜい3%くらいだろう。・・・・残りの97%は、上場までに果たせない・・・・どころか、倒産する企業も珍しくはない。
だとすれば、
「儲かる時」
そこは、貪欲に突き進む。
その「貪欲」のプランが、
「親子上場」だったってわけだ。
・・・まったく・・・
ボスコン出身の人間の思考ってのは、ボクなんかの想像もつかないことを考え付き、・・・そしてやってのける。
恐れ入った。
確かに、
先輩の会社とウチは、
本来なら、「ひとつの会社」となっているのが、別法人として存在している。
こんな好機を逃すことはない。
「親子上場」のアイデアは秀逸だと思えた。
到着ロビーを出れば不動産会社の男が迎えに立っていた。
空港を出れば黒塗りのアルファードが停まっていた。
スライドドアを開けてもらって乗り込む。
今日も、6件の不動産を見て周る。
「親子上場」
まずは、
先輩の会社の全国展開に合わせ、
施工部隊。
実働部隊のウチも、全国展開を果たしてほしいという話だった。
・・・・しかし、資金はどうするのか?
北海道、東北、北陸、中部、関西、中国、四国、九州。
一気にこれだけの営業所を出すとなると数億円はかかる。
営業所を出すとなると、
事務所経費・・・・付随する設備・・・営業車とか、
そういった費用もかかる。
費用は、モノだけにかかるわけじゃない。
社員の採用経費・・・それに付随する費用・・・・
さらには、軌道に乗るまでは、2年は赤字になると思われる・・・・その間の運転資金はどうするのか????
「資金は、本社の方から出します」
・・・・・そうか、
成海の「もうひとつ」の狙いはこれか・・・・???
「資金は、本社のほうから出します」
これは、
「貸す」
というわけじゃない。
営業所立ち上げ、その費用は本社が出し、
それは、そのまま、ウチへの「出資」という形式をとるということだった。
今のウチの会社、
資本金は2千万円だった。
最初は、1千万円だった。
ボクの100%出資金として設立された。
株式会社の最低資本金、1千万円で始まり・・・・今は、法改正が行われ、1円でも株式会社が設立できるが、
当時は、最低資本金が1千万円だった。
そこから、増資を重ねて2千万円までになっていた。
それでも、ボクの持ち株比率は70%を超えている。・・・・残り30%を、社員持ち株会や、取引先で出資させて欲しい・・・・そう言ってきた会社たちが持っていた。
事実上、ボクが単独で議決権を持っていた。
ひょっとすると・・・
成海の真の狙いは、これなのかと思った。
ウチの経営権の掌握。
資本金2千万の会社に、数億円を入れれば、経営権はボクの手を離れ本社に移ることになる。
・・・・そして、
本社の大株主は、成海のファンドだ。
・・・・ということは、ウチの会社も自動的に成海のファンドが経営権を握るということになる。
そうなれば、
ボクは、社長とはいえ、
議決権としては、持ち株分のみとなる。・・・・「数億円」の資金が入ってしまえば、ボクの「経営権」は事実上無くなったも同然となる。
・・・・いつだってボクを解任することができるというわけだ。
言葉は悪いが、
分かりやすく言えば、
「乗っ取り行為」
ということになる。
・・・・だとすれば、
簡単に「YES」と返事ができる話じゃない。
確認しなければならないことがある。
ボクは、
先輩との会談の席を求めた。
ボクが確認しなければならないこと。
それは、
先輩の意思だった。