先輩の会社が、経営不振の二部上場企業を買収した。

 

 

 

「親子上場」

 

 

 

奇しくも、

成海の描いたシナリオが出来上がったというわけだ。

 

 

ウチを上場させての「親子上場」か、

 

すでに上場している企業を買収するか。

 

 

いずれにしろ、

 

 

これで、「親子上場」は成り立った。

 

 

しかも、話題としては最高だ。

 

 

先輩の会社が上場したとき、

 

その「初値」が、今の予想金額よりも上がるのは間違いない。

 

 

 

次の日から、

 

電話が鳴り止まなかった。

 

 

銀行からの電話だった。

 

 

「親子上場」

 

 

それを見越して、

 

ウチは、日本全国に営業所を立ち上げていた。

 

その費用は、全て銀行からの借金で賄った。

 

その銀行からの電話だった。

 

 

 

「いったい、どういうことなんですか!?」

 

 

 

誰の目にも、

 

先輩の会社が、ウチから、二部上場企業に乗り換えたのは明白だった。

 

 

・・・・・確かに、

 

考えてみれば、

 

 

新たに経費をかけて、日本全国に営業所を出すより、

 

 

すでに、

 

日本全国に営業所を持った建築会社を買収したほうが話は早い、そして、かかるコストは安い。

 

それが、二部とはいえ、上場企業なら文句なしだった。

 

 

グダグダと、

 

出資交渉に時間がかかるウチを見限って、

 

二部上場企業に鞍替えしたってことなのか・・・・

 

 

しかし・・・・

 

 

そんなことが起こるのか・・・・

 

 

先輩がそんなことをするのか・・・・・??

 

 

 

「いったい、どういうことなんですか!?」

 

 

 

次から次にかかってくる銀行からの電話。

 

 

 

・・・・・どうなってる・・・???

 

 

ボクが知りたいくらいだ。

 

 

 

先輩の真意。

 

いったい何が起きているのか?

 

 

先輩に電話する。

 

しかし、繋がらない。

 

 

会社に電話してみれば、急な海外出張だと言われた。

 

 

 

やっとのことで、成海がつかまった。

 

 

 

・・・・・どういうことだ?

 

 

 

ウチを上場させるシナリオに変化はないという話だった。

 

 

ただ、

 

二部上場の「売り物」の話が持ち込まれ・・・・・さらには、時間的締め切りの猶予がなかったので、即決のような形で買収したんだと。

 

 

 

つまり、

 

 

「親子上場」

 

 

ウチと、

 

二部上場の会社。

 

その両面作戦で行う。・・・・そういった趣旨の説明だった。

 

 

 

話の筋は通っているような気がする。

 

 

ただ、

 

 

どこか「もやもや」した話だった。

 

どこか、霧の中を彷徨うような・・・

 

 

「言語明瞭意味不明瞭」

 

 

そんな話に終始していた。

 

 

 

・・・・案の定で、

 

 

ウチへの出資話は進まなかった・・・

 

 

 

・・・・・こいつはダメだ・・・

 

 

最低限の傷口にとどめるべき、

 

 

ボクは、全てを撤退していった。

 

各地方に出した営業所を撤退させていった。

 

 

事務所は解約させ、

 

まだ納品されていないものはキャンセルとした・・・・できるものは、だ。

 

 

納品されてるものはしょうがない。

 

・・・・・とくに、事務所家賃は解約ができなかった。

 

 

 

一般住宅、

 

個人の賃貸住宅と違って、

 

「事務所」「オフィス」というものは、簡単には解約ができなかった。

 

多くは違約金が発生した。

 

 

「2年契約」

 

 

1年で解約を申し込んでも、結局は違約金などで、2年分のコストがかかった。

 

 

車両、什器、備品・・・・すべてのキャンセル手続き・・・

 

 

何より、新たに雇ってしまった人員への補償・・・・

 

 

・・・・・と、バタバタとやってるうちに、猶予期間の過ぎた、銀行への返済も始まってしまった。

 

 

 

銀行からは早い段階で、

 

 

「掌が返った」

 

 

先輩の会社が二部企業の買収を発表した段階で、

 

 

ウチに対して、

 

 

「一括弁済」を求めてきていた。

 

 

 

毎日毎日銀行側は電話をしてくる。

 

 

毎日毎日、毎日毎日、

 

 

「金返せ」の電話が入る。

 

 

無下にもできない。

 

20分・・・・30分と話し込む・・・・相手をするのは10行近い数だ。

 

それだけで、勤務時間の8時間は費やされた。

 

 

 

もう、電話ではラチがあかない。

 

一回、

 

キチンと話をつけてしまわないと、日常業務が回らない・・・・ボクが何もできない。

 

 

 

銀行団への説明の場所を設けた。

 

 

ウチのミーティングルームでは大人数が入りきらない。

 

 

駅前の貸会議室をおさえた。

 

 

 

当日。

 

 

会社から自転車で会議室に向かった。

 

 

 

ウチの事務所は駅まで徒歩10分以上がかかった。

日頃の、近所への移動には自転車を使っていた。・・・・車を使うほどの距離じゃない。それに、都内は車の移動が時間がかかる。不便だ。

 

 

 

交差点。

 

 

信号で止まる。

 

 

 

・・・・・そこにトラックが突っ込んできた。

 

 

 

左折する大型トラックが、

 

 

その後輪が、

 

 

内輪差で、歩道に乗り上げてきたんだった。

 

 

そこにボクがいた。

 

 

慌てて後ろに引いたものの、

 

 

自転車の前輪が、トラックの後輪、・・・・・ダブルタイヤの餌食になった。

 

 

大きな金属音。

 

飴細工のようにひん曲がった前輪、ハンドル・・・・

 

 

トラックが止まって運転手が降りてきた。

 

 

悪く言うつもりはない。

 

しかし、

 

どう見ても「頭の悪そう」な輩だった。

 

 

 

左折で、大型トラックで、内輪差で、歩道に乗り上げる・・・・しかも、止まっていたボクに届くほど乗り上げる。

 

 

いったい、

 

 

本当に大型の免許を持っているのか・・・?

 

 

そんな、年の頃は50歳前といった運転手が降りてきた。

 

 

 

しばらくして、サイレンが聞こえてきた。

 

 

パトカーだ。

 

 

ボクは警察には連絡していなかった。

 

 

・・・・・それよりも会場に行かなければ・・・・

 

 

その思いの方が強かった。

 

 

幸いけがはない。

 

 

しかし、

 

通行人が警察に連絡したようだった。

 

 

 

結果として、

 

銀行とのミーティングが流れることになった・・・・

 

 

 

2度目の交通事故。

 

 

・・・・・こんなことがあるのか・・・・

 

 

1度ならず、2度までも・・・・

 

 

おかしなことを自分が考えてることは承知していた。

 

 

・・・・・しかし、

 

 

「何者かの意図」があるとしか思えなかった。

 

 

 

2度の交通事故。

 

 

 

「転落の坂道」

 

 

とどめを刺されてしまった。

 

 

回り出した坂道は早い。

 

 

勢いがつき、一気に転げ落ちていく・・・・

 

 

1度目の事故。

 

2度目の事故。

 

 

いずれも、大切な、

 

大事な会議の時に交通事故に合う。

 

 

どちらも「不可抗力」といっていい事故だった。

 

 

・・・・・こんなことが人生に起こるのか・・・・??

 

 

しかし、

 

 

世間の「潮目」はハッキリした。

 

 

 

・・・・・こいつの命運は尽きている。

 

 

こいつの負けは決まった。

 

 

溺れた犬は叩け。

 

 

 

そう、世間の掌は返った。

 

 

 

・・・・そして、2度あることは3度あったんだった。