「あれ?・・・キョーコちゃん」

ぶんぶんと腕を振りながら社は、キョーコに手を振った。



ダークムーンの撮影現場に到着したキョーコは、美緒の姿ではなくカリスマ女子高生のナツだった。



「こんにちは、社さん・・また、撮影現場が近いみたいなので、見に着ちゃいました。」

そう言うとナツは、普段のキョーコの素顔を微塵も感じさせないほど妖艶に微笑んだ。



「そうなんだ、蓮は、これからまたカースタントなしで車のシーンなんだよ・・だからちょっと心配でさ・・でも前回より危ないシーンじゃないから大丈夫だと思うんだけど・・でも、キョー、ナツがいれば・・安心だね」

社はそう言ってナツに視線を向けると、その視線を受け止めたナツは不思議そうな顔をしていた。



「どういう意味かしら?」



「あ、えぇ~っとその・・蓮がもし・・またこの間みたいになっても、キョーコ・・ナツが助けてくれるかと・・思って・・さ・・。」



「クス・・大丈夫ですよ。社さん・・敦賀さんは、絶対大丈夫ですから。・・もう前回のようなことにはなりません・・。」

そう言い切ったナツの横顔は、キョーコの表情だった。



必ず蓮ならやり遂げる・・・か・・。

・・・いったい何があってそう言い切れるのかわからなかったが、社はその言葉を信じることにした。

キョーコが断言したそのことに、きっと意味がある・・・。





「・・そうだね・・大丈夫だよな・・」

独り言のように社はその言葉をつぶやくと、隣でキョーコは瞳を和ませた。









「キョーコちゃん!!」

人ごみの中から、キョーコに声をかけてくる学生服の少年がいた。

社はその少年を見た後に、キョーコに視線を戻すと、その姿を見て嬉しそうに微笑んでいるキョーコに社は少し驚いた。



「キョーコちゃん知り合い?」

社は少しだけ嫌な予感がしてそれとなく聞いてみた。



「あ、はい・・学校の友達です。」

そう言われて社は、少年の着ている制服を見て納得した。

ただ、キョーコが同じ年頃の男の子に 学校の友達です と言ったのが気になり少年をじっと見つめていた。



(おいおい・・まさか・・馬の骨に・・・)



そんな社の心配もよそに、キョーコは嬉しそうに少年の方へ歩いて行くと、社はその様子を見て、大きなため息をついた。



明らかに少年はキョーコに気がある素振りで、キョーコ以外のことは見えていない様子だった。



はぁ~相手が学生じゃ牽制できないぞ・・・

どうすんだ・・・蓮・・・。



そんなことを社は心の中でつぶやいて、2人に視線を向けたまま小さなため息をついた。