「キョーコちゃん!!どうもありがとう・・・・で、蓮はどうだった?」
社に後ろから呼び止められキョーコは眉間に寄せていた皺を何とか元に戻して振り返った。


「あ、社さん。敦賀さんでしたら・・もうすっかり・・・・元気なので大丈夫だと思います。」
キョーコにしては珍しく少し不機嫌な顔で説明をすると、面白そうなものを見つけたような顔で社がキョーコを見つめた。


「・・・・なんか・・あった?」
その言葉にキョーコはポンと音が鳴ったように頬を染めながら社を睨みつけた。


「もう、しばらく敦賀さんにはお会いしませんから!」
理由も言わずそう叫ぶとキョーコは大きな足音を立てて自席へと足を向けた。
その様子を見て社は苦笑しながら自室で寝ているであろう蓮を思いクスクスと笑った。


・・百戦錬磨な顔をしながら・・あいつ本命には全く通用しないんだな・・
しかし、キョーコちゃんを怒らせるほどのことってなんだ?
微妙に顔が赤かったし・・・・
まさか・・手順も踏まずに手を出した・・なんてことは蓮に限ってはないだろうけど・・


社はいつまでもクスクスと笑いながら、遅れてキョーコの後をついて行く。


「キョーコちゃん・・ちょっと待ってよ・・」


「なんですか?社さん・・」
いつも愛想の良いキョーコが不機嫌を隠しもせずに振り返ると、その表情に社は笑いそうになった。
ある意味ここまでキョーコちゃんを怒らせるなんて蓮の奴・・すごいな・・


「蓮がなんか失礼なことしたみたいで・・俺からも謝るよ・・そもそも俺が頼んだことだし・・」


「社さん・・いくら社さんから謝っていただいても今回ばかりはしばらく許せませんから!!」
キョーコの言葉に社が驚いて瞳を見開くと、キョーコは可愛い顔をプクーと膨らまし社を上目づかいに見上げた。


「キョーコちゃん・・本当にごめん・・何があったか知らないけど・・蓮にも謝らせるから・・」

「いえ!結構です・・・・謝っていただくぐらいでしたら、敦賀さんを今後私に近づけないでいただければ問題ありませんから!」


「えぇ!!・・ちょっと・・キョーコちゃんゴメン・・いったい何があったのか訊いても良い?内容によっては俺が蓮を殴るから・・」


「そんな必要もありません!・・・二度と近づかないでくださいと伝えてくだされば結構ですから!」
火に油を注ぐようにキョーコが怒りはじめると社はどうすることもできなかった。


・・・蓮・・いったい何をしたんだよ・・


やっと見つけた恋の相手も、その気持ちに気が付いた瞬間に近づかないでくれって言われて・・・
そもそも蓮を遠ざけたがる女性がいることに俺は驚いたよ・・


はぁ~
大丈夫だろうか・・・


社は盛大なため息をつき天井を見上げた。