鏡に映る自分の疲れはてた表情を見ながら、キョーコは瞳の奥に違う瞳を思い浮かべていた。
敦賀さんの家から戻って、何度あの笑顔を思い出したことだろう。


誰にでも向ける優しい笑顔・・
そう、私だけじゃない・・・・


氷の美貌と称されたあの美しい表情にまさか自分も抗うことが出来なくなるとは・・


これ以上心を奪われないように、自分から距離をとろうとして、気が付けば朝一番に社さんに電話をして、そして担当を外してほしいと言っていた。
自分の意志とは無関係に事が進み、気が付けば電話を切ってため息をついていた。


「はぁ・・・・なんでこんなことになってしまったのかしら?」


もう絶対に恋なんてしないと思っていたのに・・
それなのに・・・・


なぜあんなところに落ちてしまったのか・・
キョーコはそんなことを思いながら両手で顔を覆い、下を向いた。


せめてこの想いの相手が社さんだったら・・
ほんの少しだけでも期待できるのに・・
敦賀さんではそんな淡い期待もできない。ただ、諦めるためだけに無理やり距離をとらなければならず、他に自分ではどうすることもできなかった。


派遣の仕事を辞めることもできず、ハウスキーパーの仕事を辞めることもできなかった。
敦賀さんと会わずに生活するには、今の仕事自体をかえなければならない。でもそれは、もう少し先でも良いのかもしれないと思った。


また、敦賀さんが他の女性と付き合い始めれば、私のことなど忘れてくれるだろう。いや、そもそも彼の中に私の存在自体がないかもしれない。


昨日見せてくれた笑顔も、きっとその女性にだけ向けることに・・

チクリと痛んだ心にキョーコは眉間に皺を寄せた。
なぜこんなことになってしまったのだろうか・・

その答えを求めてキョーコは朝から何度もため息をついていた。





そんなことを何度も考えながら重い足取りで会社へ向かうと、その正面玄関に今一番会いたくて、それと同じくらい会いたくないと思った人物が険しい顔で立っていてキョーコを驚かせた。