もし、あのまま社長室に連れて行かれて理由を訊かれていたら、私は何と答えていたのだろうか・・
あの氷の美貌が微笑むと、これほどまでに破壊力があるとは知らず、間近で見てしまえば抗うことさえ困難だった。
『君に避けられると心が痛いんだ・・・・』
使い慣れたセリフなのだろうか・・
何度も脳裏を横切る敦賀さんの顔と、あの時の言葉・・
耳に心地よい声が体中から力を奪う
今日は何とか逃げられたけど・・明日はどうなるんだろう・・
彼はいったい何を求めて、私にどうしろと言うのだろう
急な会議に呼ばれた蓮は、キョーコに視線を向けた後呼びに来た社員の表情をみてため息をついて去って行った。
何か言いたそうな顔だった。
少し寂しそうに見えたのは気のせいだったのかそれとも知らずに自分が幻想していたものが形となって現れてしまったのだろうか
いずれにしても今日はこれ以上踏み込まれなくて良かった。
まさか、本人が出勤前の自分を捕まえるために入り口に構えているなんて想像もできなかった。
キョーコは、ぼーっとそんなことを考えながらお茶を入れるために給湯室へ向かうと、すでに先客がいて、楽しそうな笑い声と会話が聞こえてきて入り口付近で足を止めた。
「次の・・・・ターゲットって・・営業アシスタントの最上さん・・・・ね」
とぎれとぎれに聞こえる言葉にキョーコはドキリとした。まさか自分が話題になっているとは思わず、進むことも戻ることもできずにその話を訊き続けることになった。
「まったく・・社長も・・いいのに・・」
また、違う女の子が何かを話しているのが聞こえた。
「ぁああでも、一度でいいから抱かれてみたいわ」
夢見る乙女の様なポーズをとっているのではないかと思えるような声が聞こえてきて、キョーコは苦笑した。
「もぉ・・あんたそんなことされたら忘れられない男として永遠に悩むことになるわよ」
「あは、言えてる!そうなったら大変よね・・」
「でも、今回って今までとちょっと違う感じしない?」
「あぁ、わかる!だって今朝・・・・」
そう言って彼女たちが廊下に向かって歩きはじめると立ち止っていたキョーコを見て驚いた顔をした。