「ご、ごめんなさい・・その立ち聞きしていたわけでは・・」
キョーコはぺこりと頭をさげて謝罪すると相手も驚いた表情を引きつらせて笑顔を向けた。


「あ・・いえ、こちらこそ・・そのごめんなさい・・」
中から出てきた3人あわててキョーコのわきを通り過ぎて行った。
びっくりしたね という声が微かに聞こえる。


「はぁ・・・・やっぱり・・そうよね・・」


私もそう思う・・


一度でも彼を知ってしまったなら、もう二度と他の男性に戻れないような気がした。
綺麗な顔だけでなく誰に対しても平等で、エスコートにも慣れている
女性がどうしてほしいのかを瞬時に計算しているのかと思うほど的確に行動し、そして毎回思うのは、とてもまめで、あの明晰な頭脳は仕事だけでなく女性との付き合いでも遠慮なく発揮されていた。


唯一の問題点は・・・・


その「唯一の問題点」がキョーコを悩ませていた。
だから近づいてほしくない・・・・


2カ月以上彼と付き合った女性がいないことがキョーコには耐えられなかった。自分がもし好きだと言ったら、付き合うことはできるかもしれない。


でも、2か月後・・・


そのことを考えると敦賀さんが近づいてくることがどうしても怖かった。


幼いころ私はショータローに依存しすぎていた・・・。
それを繰り返してしまいそうなことも、不安の要素だった。


裏切られた時に感じた憎しみで、見返してやりたいと思うほどにがむしゃらに頑張ったことも過ぎてしまえば今の自分をつくる土台になっている。
でも、もし同じことになったら、いや、同じことになるのであればまだ良いかもしれない。


なんとなく敦賀さんのそばにいると永遠に心を持っていかれてしまうのではないかと不安になる。


そして、それはきっと・・・・真実になる。


傾き始めた心を何とか自分に留めることが今キョーコにできる精一杯の抵抗だった。