蓮は今までに経験したことのない扱いに正直なところ打つ手が思いつかなかった。
女性が自分を避けることも、また、自分が女性に対してあからさまに機嫌の悪い態度をとったのも、そのどれもが新鮮でありながらも苛立ちを覚えた。
「・・まったく・・何しているんだ俺は・・」
いつもなら、何の苦もなく手に入れることのできる彼女たち・・
初めて本気で惚れた相手にはまったく相手にされないどころか、避けられている気さえする・・
もしかすると嫌われているのかもしれない。
その事実に行きつくと蓮は大きなため息をついた。
社長室にもどり、ソファーにすわりながら最近の自分の行動を思い返していた。
その行動があまりにも子どもじみていて、とても直視できるものではなかった。
「まったく」
いまどきの小学生でももう少しましだろう・・
美しいと絶賛されるその美貌が憂いをおびて人間味を増す。
彫刻のようだった無表情に近い蓮の表情は、キョーコへの想いに気が付いてから少しずつ柔らかいものへと変貌していた。
「・・ん・・蓮・・・・おい!入るぞ?・・」
ノックの音にも気が付かず蓮は窓の外を眺めキョーコのことを考えていた。
まさか仕事が手に着かないほど彼女のことを考えていたとは、自分でも驚いて蓮は一人で恥ずかしそうに口元を隠しその表情のまま社に視線を向けた。
「・・蓮・・お前・・・・今、何考えてたんだ?って言うかキョーコちゃんのこと考えていただろう?」
何も答えずにただ瞳を見開くと、蓮は誰もを魅了するその氷の美貌に驚くほど艶やかな笑みを浮かべた。
「さすが社さんですね・・その通りですよ・・」
思わず社も頬を染め、返事に困るほどだった。
「た、頼むからその笑顔を他に振りまかないでくれよ?」
「え?・・なんか変でしたか?」
全く気が付いていない蓮は、羽化したばかりの蝶のように艶やかな笑みを浮かべる。ほんのりと頬を染めた蓮の表情は、再び女性たちを虜にするのだった。