「社さん・・どうしても抜けられませんか?・・10分でいいんです・・」
急な用事を思い出したように蓮が社に尋ねた。


「ダメだよ蓮・・わかってるだろう?無理だってことは・・」


「ですから、こうしてお願いしているんじゃないですか・・お願いです。5分でいいです。いや3分でも・・」
上手くごまかしているつもりでも切羽詰まったような顔をする蓮をみて、社はニンマリと笑っていた。もちろん表面上は無表情に近い。

秘書としては文句ない表情で蓮をなだめていた。


「なんだよ3分て・・だったら、今この時間をつかえばいいだろう?」


「それが出来ればやっています。お願いですから3分でいいです・・この部屋から出してください。この際1分でも構わないです。」
尚も食い下がらない蓮の様子に社はピンとひらめくことがあった。


ははーん、さてはキョーコちゃんに連絡したいんだな・・。


重厚なドアに閉ざされた会議室。
この会議が終わるまでは外との接触が一切できないようになっていた。途中退出もしなくてすむように厳重に完備された会議室には、生活に困らないようにすべての日用品がそろっていた。キッチンやトイレだけでなくシャワーやベッドまで完備されている。
まさに、会議が終了するまではこの部屋に入った人は誰も外に出ることが出来なかった。


そんな重要な会議を途中退席してまで連絡を取りたい相手。
今の蓮はばれていないと思っているだろうが、氷の美貌の仮面がチラチラと剥がれ落ちている、その後ろから恋する男の顔が垣間見えて社は心の奥でニヤニヤと微笑んだ。


少しかわいそうな気もするが、社長といえでも特別扱いはできない。


「蓮・・あきらめろ・・」


社の重みのある言葉に蓮は大きなため息をつき、時計に視線を向ける。


時刻は21時50分・・


蓮は仕方なく、諦めたように目を伏せた。